『天国から来たチャンピオン』

 

公開 1978年

 

監督 ウォーレン・ベイティ、バック・ヘンリー。

 

出演 ウォーレン・ベイティ、ジュリー・クリスティ、ジェームズ・メイソン、バック・ヘンリー、ジャック・ウォーデン、チャールズ・グローディン、ダイアン・キャノン、ヴィンセント・ガーディニア、R・G・アームストロング、ウィリアム・ボガート。

 

予告編

 

 

 

あらすじ アメリカン・フットボールのクウォーター・バック、ジョー・ペンドルトン(ウォーレン・ベイティ)は膝の怪我のリハビリに励んでいます。ジョーは次の日曜日の試合に出場することが決まっていたが、トンネルの中で自転車事故に遭います。ジョーがトンネルを抜けると雲の上にいます。ジョーは天使(バック・ヘンリー)に引率されて天国に向かう飛行機の搭乗口に行き、そこで事故死したことを知らされます。自らの死を理解出来ないジョーは、天使の責任者のジョーダン(ジェームズ・メイスン)に再調査させると、ジョーが死んだのは新任天使の手違いで、ジョーにはまだ50年の寿命が残っていたことを知らされます。ジョーは天使に連れられて、地上に舞い戻ると、ジョーの肉体は既に火葬されていて、ジョーの魂は帰る所を失っていました。

 

2人はジョーの魂が入る新しい住処(死体)を探します。ジョーはジョーダンに引率されて大邸宅に着くと、ジョーは妻のジュリア(ダイアン・キャノン)と彼女の浮気相手で秘書のトニー(チャールズ・グローディン)に殺害されて間もないファーンズワースの遺体をジョーダンに斡旋されます。フットボールの選手として再生したいジョーは断り、邸宅を去ろうとした瞬間に、ベティ(ジュリー・クリスティ)という名の美しい女性が現われます。ベティはイギリスで教師をしていて、彼女の故郷がファーンズワースの会社がもたらした公害の被害を訴えに、イギリスから直接会って抗議に来たのでした。ベティに一目惚れしたジョーは、彼女の力になるために、一時的にファーンズワースの肉体を借りることを承諾します。ここで外見はファーンズワースだがジョーの心を持つの肉体が再生します。ジュリアとトニーは殺害したレオが生きていたことに驚愕し、再びレオの殺害を試みます。ジョーはイギリスでの工場の建設計画を取り止めにすると、ベティーは彼に惹かれ始めます。

 

外見はファーンズワースのジョーは親友のトレーナーのマックス(ジャック・ウォーデン)を邸宅に招き、苦労の末に自分がジョー・ペンドルトンであることをマックスに信じさせ、ジョーはマックスとスーパーボウル出場のために猛特訓を始めます。ファーンズワースはチームを買収すると、彼はチームに入団します。

 

順風満帆だったジョーがベティに結婚を申し込もうとしていた矢先、ジョーダンが再び現われ、ファーンズワースの肉体を明け渡すように言います。その頃、スーパーボウルが行なわれスタジアムではジョーの代わりにクォーター・バックを務めたトムが怪我を負い瀕死の状態でした。ジョーはそのことを知るとトムの肉体に宿り、試合で活躍します。同じ頃、ファーンズワースの死体が井戸から発見され、ジュリアとトニーは逮捕されます。ラムズは勝利をおさめ全米一に輝きます。ジョーダンはジョーにこれからは、トムとして生きていくことを告げると、静かに去って行きます。マックスを探しにスタジアムにやってきたベティは、トムと出会います。ベティはジョーの記憶がないトムの瞳から、ジョーの面影を感じます。2人は見つめ合うとお茶に誘われたベティはトムと共にスタジアムを去ります。

 

 

あとがき 『天国から来たチャンピオン』は『幽霊紐育を歩く』(本国アメリカでは1941年に公開、日本では戦後1946年に公開)のリメイク作品で、天国から人間が帰ってくる作風の映画はたくさんありますが、『天国から来たチャンピオン』はその中で知名度が高く代表的な作品だと思います。娯楽性に富んだ『天国から来たチャンピオン』は大ヒットし、アカデミー賞のいくつかの部門に、ノミネートされます(『幽霊紐育を歩く』も同様です)。オリジナルの『幽霊紐育を歩く』の主人公はボクサーでしたが、これは制作当初にボクサー役をモハメッド・アリに出演を依頼したところ、スケジュールが合わなかったので、学生時代にフットボール選手だったウォーレン・ベイティが、クウォーター・バックの役で出演することとなりました。また監督はアーサー・ペンとマイク・ニコルズに依頼しますが、2人共スケジュールが合わなかったので、ウォーレン・ベイティがバック・ヘンリーと2人で監督を担当することとなります。

 

『天国から来たチャンピオン』はウォーレン・ベイティの初監督作品。ここでウォーレン・ベイティは、監督と主演、プロデュースと脚本の4役を兼務して、俳優以外にも多彩な才能を発揮しています。アメリカン・フットボールは野球と並んでアメリカの国民的なスポーツで、クウォーター・バックはチームのリーダー的な存在です。劇中でジョー・ペンドルトンを演じるウォーレン・ベイティは体格が良いと思ったら学生時代はアメリカン・フットボールの選手でした。前述の能力があれば女性にモテないはずがなく、ウォーレン・ベイティはプレイボーイとして、映画界に数々の逸話を残すこととなります。「天は二物を与えず」という言葉がありますが、天から二物はおろか三物、四物、五物を与えられたウォーレン・ベイティに、私を含めて多くの非モテ系の人間が羨望したのは言うまでもありません。

 

ウォーレン・ベイティは次回作で政治色が強い大傑作『レッズ』を制作(プロデュース・監督・脚本・主演の4役を兼務)します。ウォーレン・ベイティは政治的には民主党を支持し、リベラルな発言を繰り返しています。劇中でもファーンズワースの会社に、環境団体が多数苦情を言いに来ると、ファーンズワース(心はジョー)は、新聞記者や環境団体を重役会議に招きます。経営のけの字も知らないアメリカン・フットボールの選手の発言に重役連中は狼狽します。核の危険性の話題になるとファーンズワース(心はジョー)は、安全性が確認されるまでは施設の建設を見送るように話しますが、この辺りはウォーレン・ベイティの政治信条が反映されていると思います。映画が公開された翌年の1979年にスリーマイル島原発事故が発生するので、早い時期から原発の安全性に警鐘を鳴らしていた1人だと思います。

 

物語に戻ると終盤でジョー・ペンドルトンのチームが試合の前に、トレーナーが「勝てば世界チャンピオンだ。金や声援は消えて失せる。体の見てくれも」と言って自らの腹をさすりながら「だが名声は消えん」と話して、選手の士気を鼓舞します。「体の見てくれも」の言葉が示唆する通りトム・ジャレットの体から、暫くしてジョーの魂が去り、トム・ジャレットの人格に戻ります。ジョーの記憶がないトムにマックスは愕然として、去って行くトムの背中を寂しそうに見つめがら1人更衣室に残ります。そして物語のラストはベティとトムが結ばれることを予感させるエンディングです。しかしベティがジョーの記憶が消えて別人となったトムと、観客が帰って誰もいないスタジアムを去って行くのは、どこか物哀しさを感じさせる結末でした。