『先生のつうしんぼ』

 

公開 1977年

 

監督 武田一成

 

出演 渡辺篤史、大橋伸予、木村政彦、菊地優子、中田光利、中井徹、瀬島みつき、清水葉子、今福正雄、小鹿番、葦原邦子、玉川良一、関悦子、久保幸一、宮下順子、宇野重吉、一谷伸江、町田祥子、木島一郎、高山千草、日夏レイ。

 

 

あらすじ 八王子の小学校。女子生徒が女の子同士で通信簿を見せ合っていると、いたずら小僧の松木吾郎(木村政彦)と菊地和彦(中田光利)、田中伸一(中井徹)の3人がのぞき見をして、女子生徒から追いかけられます。吾郎と和彦と伸一は川原で男の子同士で通信簿を見せ合っています。吾郎が川原で投げた石が近くで釣りをしていた青年(渡辺篤史)にあたり「こら。ザリガニが釣れてたのに」と怒鳴られ、3人は逃げて行きます。吾郎は新学期に校庭で新しいクラスの担任が紹介され、朝礼台に上がった青年を見て驚きます。その青年は川原で釣りをしていた青年で、名前は古谷昭一といい、吾郎達のクラスの4年1組の担任になります。吾郎達は古谷先生をザリガニと名付け、ザリガニの一挙一動に注目し、学校の中では“4年先輩”の吾郎が新米教師の通信簿をつけることになります。古谷先生は生徒には人気者で、4年2組の担任の女性教師・白井先生(大橋伸予)とも親しくなります。

 

4年1組に山上玲子(菊地優子)という生徒が転校してきます。吾郎は可愛い玲子に一目惚れします。4年1組は学級会で給食を残さず食べることが決まっています。給食の時間に吾郎は古谷先生がカレーを食べながら頻繫に口を拭いているのを不思議に思い、文子(瀬島みつき)も気が付きます。次の学級会で古谷先生はにんじんを食べるふりをして捨てていたと告白します。ある時、吾郎達が町でお婆さんと出会い、お婆さんから「学校で蚕を飼育して欲しい」と蚕が入った箱を渡されます。八王子はかつては蚕が生み出した絹の名産地でした。古谷先生をはじめ蚕が苦手な生徒が多かったですが、蚕を通じて生命が生きることを学ぶ目的で、4年1組と2組で蚕を飼育することになります。蚕の飼育が順調に進んでいる時に、蚕が動かなくなっていることに気が付きます。古谷先生と生徒が心配しているのを見た八王子出身の白井先生は、それは脱皮前の蚕だと説明します。古谷先生は蚕の脱皮を生徒に見せる為に徹夜で8ミリカメラで撮影していると、体調が悪くなり肺炎になって入院します。

 

ザリガニが入院した原因が、新米教師のストレスも関係すると知った吾郎と和彦と伸一は、3人でザリガニの通信簿をつけることになります。蚕の飼育の報告に病室を訪れた生徒に、病室の古谷先生は「先生も早くベットから脱皮しなきゃな」と話します。生徒は蚕の飼育だけではなく、養蚕や八王子の近代史も学び、吾郎と玲子は八王子から横浜へ続いた絹の道を散策します。帰宅の途中でザリガニの通信簿を見た6班の女子も通信簿の作成に参加します。やがて退院した古谷先生は学校で、撮影した8ミリを上映して、生徒は大喜びします。夏休みの前日に古谷先生は4年1組の生徒に通信簿を渡します。吾郎が古谷先生に通信簿を渡すと、新米教師一年生の古谷先生は照れくさそうに微笑みます。

 

 

あとがき 『先生のつうしんぼ』は日活が制作した児童映画の1本です。現在は分かりませんが、私が小・中学生の頃は体育館に生徒(児童)が集まり授業(道徳教育)の一環で映画を鑑賞しました。年齢が上がるごとに児童映画から娯楽映画(学校が教育に適していると判断した作品)へと推移していきました。児童映画は娯楽性よりも教育映画の色彩が強く、児童(生徒)が学校生活の中で強調しあって目標を達成し、そこで芽生えた友情や子供達の成長が育まれていく様子が描かれています

 

『先生のつうしんぼ』が公開された1977年(昭和52年)は、私は小学生だったので、体育館でリアルタイムに映画を鑑賞しました。昭和50年代に小学生だった人は映画の内容は思い出せなくとも、主題歌を聴いたことがある人は多いと思います

 

「先生のつうしんぼ」

 

 

 

原作者の宮川ひろは小学校の教員を経て児童文学の作家になった人です。彼は『先生のつうしんぼ』のあとがきで「毎日、子どもの前に立たされている教師という仕事は、いやでも何十という好奇心にみちた目で、見つめられることになります。通信簿をつけられているのは、じつは教師のほうではないかと、こわくなることがありました。けれど子どもたちは、けっしていじわるではありません。なにもかもよくできる先生よりかは、なにか一つぬけおちているような先生に、かえって親しみをもって、助けたり、かばったりもしてくれるのです」と述べています。

 

大学を卒業したばかりの真面目(不器用)だが、そそっかしい新人教師(1年生)古谷先生を、コミカルな役が似合う渡辺篤史が好演しています。物語は4年1組の6班の生活が中心に描かれ、6班には腕白少年の吾郎、病弱で内向的な転校生の玲子がいます。そそっかしい先生や、腕白少年と病弱で内向的な女の子の触れ合い(少年は片想い)は、映画のみならず児童を中心とした作品では珍しいものではありませんが、この辺りは学園物の定番なので、受けたと思います

 

『先生のつうしんぼ』は日本国内では成功を収め、海外でも公開されることになります。そして同作の成功を受けて『お母さんのつうしんぼ』も制作されます(監督は武田一成、原作は宮川ひろ)。

 

児童映画は子供の頃に小学校でリアルタイムに観た世代と、映画マニア(大人)が好きな監督や俳優が出演している作品を深掘りしていく過程で作品と出会ったケースがあります。また私のように子供の頃にリアルタイムで観た世代が、大人になって映画マニアになり再び作品を鑑賞するケースもあります。日活児童映画は多くは、後に名作を制作する無名時代の監督作品や無名時代の俳優が出演している作品があります。日活児童映画はDVD化されていないので、早くDVD化して欲しいものです。