『さすらいのカウボーイ』

 

公開 1971年

 

監督 ピーター・フォンダ

 

出演 ピーター・フォンダ、ウォーレン・オーツ、ベルナ・ブルーム、ミーガン・デンバー、セバーン・ダーデン、ロバート・プラット、テッド・マークランド、リタ・ロジャース、アン・ドーラン。

 

予告編

 

 

あらすじ ハリー・コリングス(ピーター・フォンダ)とアーチ・ハリス(ウォーレン・オーツ)とダン・グリフェン(ロバート・プラット)の3人は、アメリカ各地を放浪しています。3人はデルノテという小さな町に流れ着くと、ダンは馬の蹄鉄を修理するために鍛冶屋を探しましたが、鍛冶屋はいませんでした。3人は何も無い町の酒場で、安酒を飲みながら目的地のカリフォルニアについて話していました。カリフォルニアに行く気がなくなったハリーは、妻のハンナ(ベルナ・ブルーム)と娘のジェニー(ミーガン・デンバー)が住む、7年前に去った家に帰ると話します。若いダンはハリーを引き留めますが、年上のアーチはハリーの気持ちを察し、彼を引き留めませんでした。その夜、酒場に酒を買いに行ったダンが戻って来ないので、ハリーとアーチが酒場に行くと、銃声が鳴り瀕死のダンが倒れます。

 

ハリーとアーチが愕然としていると、マクヴェイ(セバーン・ダーデン)は、「ダンが妻に乱暴したので撃った」と事情を説明しました。翌朝、ハリーとアーチはマクヴェイの家に向かいます。2人はダンの馬が家の前に繋がれているのを見ると、ダンを射殺したのは、ダンの馬を奪うのが目的だったと確信します。ハリーはベッドで寝ているマクヴェイの足裏を銃で撃つと、アーチと共にデルノテを後にし、ハンナの家に向かいます。ハリーが家に帰って来ると、ハンナは動揺を隠せません。ハリーを拒絶するハンナに「使用人として置い欲しい」と話し、ハンナは2人に納屋を与えます。2人は一生懸命にハンナの農場で働きます。ある日、アーチは酒場でハンナが使用人と関係を持っていると告げられ、アーチはハリーの前でその男を殴ります。ハリーは噂の真意をハンナに訊ねると、ハンナは数人の使用人と関係を持ったことを認めます。しばらくしてアーチはカリフォルニアに行くために、ハリーとハンナ、ジェニーに別れを告げると去って行きます。

 

ハリーの放浪癖が落ち着きハンナとジェニーが幸せに過ごしているとマクヴェイの手下が現れます。手下はアーチを捕らえていて、ハリーがマクヴェイのもとに行かないと、アーチの指を1本づづ切断すると伝言を伝えます。ハリーは切断された指を見ると、状況を理解して荷造りを始めます。ハンナが涙を流してハリーを止めますが、ハリーはアーチの救出に向かいます。デルノテに到着したハリーはマクヴェイの一味と対峙すると、牢から脱出したアーチと協力してマクヴェイの一味を射殺します。しかしハリーも撃たれて、アーチの腕の中で亡くなります。ハンナが自宅のポーチに座ってハリーの帰りを待っていると、ハリーの馬に乗ったアーチが現れ、彼女はハリーが帰って来ないことを知ります。アーチはハンナと言葉を交わさず、静かに使用人が寝起きする納屋に入って行きます。

 

 

あとがき ピーター・フォンダは『イージー・ライダー』の主演俳優の文脈で語られることが多いと思います。彼は『イージー・ライダー』の影響力の大きさは予想外だったようです。ピーター・フォンダ=大型バイク、革ジャンというイメージが強かったので、『さすらいのカウボーイ』で、初めてメガフォンを取った時に、イメージ・チェンジには苦労したそうです。彼は『さすらいのカウボーイ』制作後に日本のインタビューで両作の相違について「オートバイを馬に変えただけだ」と答えています。アメリカでは大型のオートバイをモーターサイクルとは別に鉄の馬とも呼びます。鉄の馬の由来は、西部開拓時代にカウボーイが馬に乗っていましたが、現代では移動手段が馬からオートバイに代わったので、西部開拓時代のノスタルジーを込めて鉄の馬とも呼びます。自由を求めてオートバイで広大なアメリカ大陸を旅した『イージー・ライダー』は、西部劇の現代版だと言われるところです。そしてピーター・フォンダは大のオートバイの愛好家です

 

ピーター・フォンダの家庭は父親が名優のヘンリー・フォンダで、姉のジェーン・フォンダが女優で家族は俳優一家です。ピーター・フォンダは子供の頃に母親が心臓発作で亡くなったと教えられますが、真相は父ヘンリー・フォンダの浮気が原因で母は精神病院で自殺したのでした。母の自殺が原因でジェーンとピーターの姉弟は、長い年月に渡って父のヘンリー・フォンダとの間に確執が生じます。

 

物語に登場するハンナとアーチの存在が印象的です。旅の途中でハリーとアーチとダンの3人がデルノテの町を訪れると、ハリーはカリフォルニアに夢を抱くアーチとダンを見ながら、妻子がいる家に帰ると話します。3年前にもアーチとこの町を訪れているハリーは「家は人生の出発点で大切な場所だ」と答え、引き留めるダンに「3、4年後にはここで安酒を飲んでるぞ。後悔しながら」と話します。妻のハンナ(ベルナ・ブルーム)はハリーよりも10歳年上で、妻というよりはどこか母親のような存在で、ハリーよりも年上の中年男性のアーチは旅を通じて世間を見せたところは父親に似た存在だと思います。外の世界に憧れを抱くダンはハリーが旅に出た頃の年齢でした。そして銃で撃たれて現実の世界に引き戻されたダンが最後に放ったのが「お母さん」という言葉だったのが印象的です。ハンナはハリーが帰って来たのを困惑しながらも迎えるのと同時に、ハリーを旅へと連れ立ったアーチの存在には常に不安を抱きます。物語のラストでアーチの救出に向かうハリーを、ハンナはアーチと仕組んだアーチのもとに戻る為の策略だと疑い、必死にハリーを引き留める件は妻ではなくどこか母親のように見えます。この辺りはどこかピーター・フォンダの家族観が反映されている気がします。また家庭に落ち着かず根無し草的な生き方をしているハリーの様な人物は、ピーター・フォンダの人生観が感じられます。

 

映画の原題となった『The Hired Hand』は訳すと、(主に牧場や農場)雇われて働く人です。7年前にハンナのもとを去ったハリーを夫ではなく、最初は“使用人”(Hired Hand)として農場で雇うことを指しています。

 

物語の随所に逆光の輝きを活かして撮影された素晴らしい映像が注がれ、ブルース・ラングホーンの音楽と相まって映画を幻想的で美しい物に仕上げています。撮影を担当するのはヴィルモス・スィグモンドです。ブルース・ラングホーンはボブ・ディランの「Mr. Tambourine Man」のモデルになった人物で、ピーター・フォンダはヒュー・マセケラに紹介されて彼と知り合います。ブルース・ラングホーンは映画音楽の制作は未経験だったので、スタジオからはピーター・フォンダに「友達を連れて来られても困る」という意見が出ました。しかしオープニングの音楽をスタジオに聴かせたら、誰も何も言わなくなりました。

 

ブルース・ラングホーン 「The Hired Hand」

 

 

 

1960年代後半から70年代半ばにかけて、たくさんのロード・ムービーが制作されました。ロード・ムービーの多くのテーマは自分探しとなっています。ピーター・フォンダの若い頃の自分探しが感じられる『さすらいのカウボーイ』は、『イージー・ライダー』と対を成す名作だと思います。