『ともだち』

 

公開 1974年

 

監督 澤田幸弘

 

出演 安倍仁志、鈴木典子、牟田悌三、谷口香、高原駿雄、石井富子、下川辰平、地井武男、高山千草、古賀真佐代、松田優作、原田美枝子。

 

あらすじ 日本でも有数の工業地帯・川崎市の小学校で子供達が楽しそうに遊んでいます。1人の女子生徒・良子(鈴木典子)が腕白の新太(安倍仁志)に絡まれています。病弱の良子は喘息を患っており、掃除をしないで帰宅するのを、新太は快く思っていません。ある時、新太は席替えで、隣りの席に良子が着くと、新太は無口で陰気な良子をあからさまに嫌います。担任の戸山先生(地井武男)は、プロのサッカー選手になるのが夢の新太に良子を引っ張っていくように諭します。

 

空気の澄んだ岩手の山奥から転校してきた良子は、川崎の工業地帯の環境に適応出来ず、喘息を患います。やがて良子は仲間外れにされ、次第に無口で暗い性格になっていきます。ある日、新太は校庭でサッカーをしていていると、あや取りをしていた良子に無理矢理ゴールキーパーをやらせます。良子は初めはボールを取れないものの、少しづつボールを受け取れるようになり、この日を境に新太と良子の距離は縮まります。仲間外れにされた良子の悩みが分かった新太は、実家に良子を遊びに来させる為に、猛勉強に励みます。それは通信簿に体育の他に5がひとつ増えたら、両親が何でも新太の願いを叶える約束をしたからです。新太は猛勉強の結果、通信簿に5がひとつ増えます。新太が良子を家に招きたいと母親(谷口香)に話すと、実家が弁当屋を営んでいる関係で、風評を気にする母親が喘息を患っている良子が家に来ることを反対します。父親(牟田悌三)にも反対された新太は雨が降る中、家を飛び出します。雨の中の走り回った新太は急性盲腸炎になり、病院に搬送されます。

 

ふと新太の母親が病室の窓から、良子を見かけます。来る日も来る日も良子の姿を見かけた母は、良子の健気さに絆されて自宅に良子を招きます。その日、良子は岩手で飼っていたリスのチイ子を新太にプレゼントします。すっかり明るくなった良子はクラスメイトとも親しくなります。その時に澄んだ海を見たことがない良子に九十九里浜の海を見に行こうとクラスメイトが約束します。良子の健康を心配した叔父(下川辰平)は、岩手の実家に良子を静養させる為に、転校させます。転校先の岩手の小学校から良子が手紙を送り、文面には健康的な生活を送り順風満帆な日々を送っていると記されていました。しかしそんな矢先に新太の小学校に良子が喘息の発作に襲われ心臓が持ち堪えられず、急逝した知らせが届き、教室の全員が黙禱を捧げます。中学生になり少し大人になった新太は家族と訪れた九十九里浜の砂浜にチイ子を放します。

 

 

あとがき 現在はどうか知りませんが、私が昭和50年代に小学校に通学していた頃は、小学校の体育館に児童が集められ児童向けの映画を鑑賞しました。最近になって知りましたが、児童映画というジャンルがあり、児童映画とはその名称通り児童が主人公の映画です。児童映画はPTAなどが推薦する作品が殆どで、映画の作風は児童達の友情を称賛し、児童達が団結して努力をし、ひとつの目標(課題)を達成することなどが主題として描かれています。そして当時の小学生の日常生活や、大人が入れない子供だけの秘密基地(子供だけの隠れ家は万国共通)など、子供だけの世界も描かれています。

 

『ともだち』は他の児童映画のテーマと同様に、腕白の男子児童と喘息を患っている病弱な女子児童の友情(初恋)が描かれています。劇中で担任の先生が新太に「良子ちゃんはな、君の様な元気のいい者に引っ張ってもらわなければ、ダメになってしまう。病気が治るどころか悪くなるばかりだ。だからそこをみんなの力で引き出してやりたいんだ」と話す辺りは、『ともだち』の主題を集約した台詞だと思います。新太が男の子だけの秘密基地に女の子の良子を誘います。そこで新太は将来の夢はプロのサッカー選手になって世界中に行きたい、良子はスチュワーデスになりたいとお互いの夢を話します。新太が「俺がサッカー選手になって、お前がスチュワーデスになって、偶然に同じ飛行機の中で鉢合わせになったらどうする?」という台詞には、友情と同時に初恋が芽生えていくのが感じられ好感が持てます。

 

劇中で良子が心を閉ざすようになった原因は、良子は初めの頃はクラスメイトの家に誕生パーティーに誘われますが、クラスメイトの両親が良子の病気を問題視し、良子がクラスメイトの家に遊びに行っても居留守を使われることになります。前述しましたが、新太はそんな良子に家に遊びに来るように誘います。新太が猛勉強をして両親との約束を話すと、母は弁当屋の家に喘息を患っている子供(良子)が遊びに来るようになったら、お店の風評に係るから新太の要求を断わります。新太が喘息は結核と違って感染することはないと訴えても、「世間の人達はそうは見ないわ」と話します。新太と母のやり取りを聞いていた父は「理屈じゃないんだ理屈じゃ」と怒鳴ります。この辺りのやり取りは喘息と結核は似て非なるものですが、世間の人達の間では喘息と結核は同様の病気だという誤解や偏見が根強く残っていることを、熟知している子供には分からない両親の世間知だと思います。

 

映画の冒頭で工業地帯を象徴する石油コンビナートが映し出されます。物語の舞台となるのは川崎市で、劇中でも工場などの煙突が写されています。工場が多い川崎市では光化学スモッグは日常の生活のごく一部で、私が小学生の頃は川崎市は空気が汚いというイメージが強かったです。しかし当時は小学生だった私も工業地帯が排出する煙が原因で、川崎市には喘息を患っている人間は多いとは聞いたことがありますが、喘息が感染する性質のものではないことは知っていました

 

児童映画『ともだち』には、無名時代の松田優作が弁当屋の配達員の役で、原田美枝子(デビュー作)は新太のお姉さん役(中学生)で出演しています。2人共脇役の感はありますが、松田優作や原田美枝子ファンには見逃せない作品だと思います。