はじめまして、高橋雅也と申します。
郊外で精密金属部品加工の会社を経営している、48歳の二代目社長です。
18名の腕聞き職人たちと毎日油にまみれてモノづくりに励んでいますが、いま私は人生で最も暗いトンネルの中にいます。
今回は、私がなぜ深夜まで一人工場に取り残されるようになったのか、その生々しい始まりをお話しします。
大型機械が止まった後の「もう一つのシフト」
夜22時。
昼間はガチャンガチャンと重厚な金属音が響いていた工場が静まり返り、冷たい空気が満ちていきます。
職人たちが全員帰宅したあと、私の「第二の勤務」が始まります。
事務所の薄暗い蛍光灯の下で向き合うのは、デスクに山積みされた伝票と請求書の束です。
【毎晩残される事務作業】
- 得意先ごとの納品書と受領書の照合
- 月末締めの請求データ作成と打ち込み
- 日々の小口現金の計算と帳簿付け
どれも会社を経営する上で1円の誤差も許されない重要な業務です。
しかし、叩き上げの職人上がりである私にとって、画面の小さな数字を追いかけ、慣れないパソコンのExcelと格闘するのは拷問に近い作業でした。
セルを一つ押し間違えただけで計算が狂い、原因を探すだけで1時間が吹き飛ぶ。
気がつけば時計の針は23時を回り、誰もいない工場に私の深い溜息だけが響いていました。
「なんで社長の俺が、連日こんな時間まで一人で伝票をめくってるんだ…」
勤続15年のベテラン事務員が残した穴
半年前まで、こんなことにはなっていませんでした。
うちには勤続15年になるベテラン事務員の渡辺さん(仮名)がいてくれたからです。
彼女は経理から総務、お茶出しから消耗品の補充まで、裏方作業のすべてを一人で完璧にこなしてくれていました。私や現場の職人がモノづくりだけに100%集中できたのは、間違いなく彼女のおかげでした。
しかし、ご家族の介護という事情で突然の退職が決まりました。
引き継ぎ期間はわずか1ヶ月。
「社長、やり方はノートにまとめておきましたから、落ち着いてやれば大丈夫ですよ」
笑顔で去っていった彼女の言葉を、私は甘く見ていました。
「パソコン入力と書類の整理くらい、俺でも隙間時間にできるだろう」と。
その浅はかな考えが、全ての悲劇の始まりだったのです。長年の勘と経験で彼女がサラリとこなしていた作業は、素人の私にとっては時間と精神を際限なく削り取る「底なし沼」でした。
作業員に成り下がった社長の焦り
事務作業に追われるようになってから、社長としての本来の仕事は完全にストップしました。
昼間は客先との打合せや現場の突発トラブルの対応、夕方から深夜まではひたすら書類作成。
睡眠時間は削られ、常に頭にはモヤがかかったような状態です。
新規の営業開拓や、工場の将来に向けた設備投資の計画など考える余裕は1秒もありません。
ただ目の前の書類を処理することだけに忙殺され、精神的に追い詰められていきました。
そして、この「ワンオペ事務地獄」のシワ寄せは、ついに現場の職人たちへと波及していくことになります。
