満開の桜と女 | YASSの小窓

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桜の季節が近づいてきた

やがて東京の街も桜色に染まっていく


10年ほど前になるか、

毎晩のように飲んだくれていた酒場でいつも見かける女がいた

醒めたような涼しい目元と笑い声が印象的だった


桜が満開の頃、女が声をかけてきた

お花見しませんか

店を出て少し歩いたところの酒屋でオリーブとテタンジェを2本買って5分ほど歩いた

連れていかれたのが5階建てのビルで3階が女の部屋だった

狭い部屋は何もなく殺風景でベランダだけがやたら広かった

窓からは大きな桜の樹が1本、満開を迎えていた

ベランダでオリーブをつまみながらテタンジェを飲んだ

散り始めた桜の花びらが風に舞いグラスやセーターについた

そんな光景が妙に可笑しかった

部屋には猫がいた

猫も一緒に満開の桜を楽しんでいるように見えた


寒さに目覚めると公園のベンチで寝ていた

固い枕はテタンジェのボトルだった

桜吹雪が風に舞いジャケットに花びらがたくさんついていた


桜の頃になると思い出す

あのベランダからみた満開の桜と女


去年の満開の頃、あれ以来行かなくなった酒場にいってアブサンを2杯煽った

店も人も様変わりしていた

店を出てしばらく歩いたら酒屋を見つけた

昔見たような酒屋だがテタンジェは置いてなかった

酔いざましに記憶の赴くまま歩いていた

桜の見えるベランダはどこにもなかった

もう歩道には桜の花びらが舞い降りていた


桜の美しい時期は短くやがて派手に散っていく

そんな生き方もいいものだな


桜吹雪に混じりながら遠い記憶の花びらも風に舞い消えて見えなくなった


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