お金もないのに60歳で定年退職した変わり者がいるぞ、
ということなのか。
少し外れている人、と思われて心を開いてくれるのか、
このところ、込み入った相談を受けることが続きました。
そのうちの一人はこの間まで勤めていた会社の部下で、
「仕事を辞めたい」と。
遠い道のりを、我が家の最寄り駅まで行きますというので、
「これは本気だな」と思うと同時に、
昔の上司に何を言ってほしいんだろうと、
心中を推し量りました。
駅前の喫茶店で久々に見た顔は、やっぱり依然ふてぶてしく、
手を焼かせられた思い出が、ワサワサと記憶に浮かんできました。
急にどうもすいませんと、しおらしい様子で頭を下げたその口で、
「たぶん暇だと思ったので、
ちょっと聞いてもらおうと」
などと抜かしたので、そのあとは、もうこちらも遠慮なく、
「何でわざわざ俺なんだ。
嫌いだっただろ俺のこと」。
「そうでもないです。自由な感じだったし」
辞めたい理由は、今の会社で3年後の自分が想像できないからだと。
他にやりたいことがあるわけではないのだと。
それを聞いて「こいつ、全然変わってないな」と思いました。
文句は言うが、自分からは動かない。
誰かに背中を押してもらうのを待っているような、そんなタイプ。
「とりあえず、3日会社休めよ」
「え?」
「それで、どっちにするか自分で決めたらいいんじゃない?」
「病気だとかなんかって言うんですか?」
「そんなのは自分で考える」
「gojoboさんに言われたからって言いますよ」
「言えるもんなら言ってみな。だけどお前のことだからね」
「自分の道は自分で決める」
そう投げると、彼は黙り込んでしまいましたが、ここは畳みかけてやらなくては。
「やめとけとか、やればいいとか、もう俺は言わないから」
何か、昔と変わりましたね、とか口の中でぼそぼそ言ってました。
多分、あてが外れたんだと思います。
もう上司じゃないんだ。自分で歩け。
「飲み行くぞ!」
コロナの縛りが解けた居酒屋に繰り出し、結構散財してしまいました。
「いつか奢れよ」
背中をどやして、改札で後姿を見送りました。