50km奮闘記① | Going my way ~大島→江ノ島泳断チャレンジ~

50km奮闘記①

その日はいつも通りの朝だった。
特別ではなく、いつもの目覚め。

隣で寝ている葵依の声で目を覚ます。


葵依は朝、機嫌がいい。
最初はお腹をくすぐったりすると、キャッキャと笑う。
でもだんだん飽きてくるから、次は起して、ベットの柵を持たせ
つかまり立ちをさせる。
すると、誇らしげに、得意げな笑顔でこちらを見る。
そんな時間が俺の最高の楽しみ。まじ、癒される。


そんな穏やかな朝。
恵加からも「何かいつものレースみたいにピリピリしてないんだね」と
言われた事が印象的だった。


自分の力ではどうなるか分からない、大きな山を前にしたとき
人が相手ではなく、自然が相手だったとき
闘争心ではなく「何があっても受け入れよう」という
穏やかな気持ちになるんだと実感した。



着替えてショップに顔を出すと、せわしなくクルーが準備を行っていた。
「おはよう!」と挨拶し、皆の顔を見る。
うん、いい感じだ。


最終MTGを行い、いざ海へ向かう。
時間は1時間押しだったが、まっ、想定の範囲内。


海は綺麗だったし、最高の波が立っていた。
力強く、しっかりとしたウネリが入ってきている。
「あー、波乗りしたい」
これは本音。
でも、今日は「The Day」だから、我慢。


実は夏休みにいくつかチャレンジ日程の候補があったのだが
①悪いコンディションで行う
②先がどうなるか分からないから、良い日が来たらすぐやる
の2つが今回の条件だった。




Tバーへ行き、スタートラインに立つ。
キラキラ光る海を前にタマが「ここにいるサーファー、今から50km泳ぐなんて
誰も想像していないでしょうね?」と言う。
確かにそうだな。笑


準備も完了し、最後のお祈りというか瞑想。
俺の場合は、誰に祈るのではなく、目を閉じ、耳を澄まし波の音を聞き、
自分のリズムと自然の胎動を調和させるイメージを作る。
そして、左手にあるワイレアの指輪を触り、家族を思い出す。
これから始まる長い旅に「気長に行こう」とリラックスしながら
「絶対にゴールする!」と覚悟を決める。



沖では先に出た、敦士が待っていた。
今回のフォーメーションはマリブボード(ライフセービング競技用のボード)と
アウトリガーカヌー2艇でのクルー3人体制。
正確に言えば、途中で1人がローテーションで入れ替わるから、
トータルで4人の仲間に見守られながら泳いだ。


最初は烏帽子を経由し、大磯プリンスを目指す。

体は快調だった。

真横からのウネリは強かったが、耐え凌ぐ。
前回の反省を活かし、真横の搬送はマリブボードがつく。
カヌーよりウネリの影響を受けにくく、且つコントロールがしやすい為だ。
これは大さんからもらったアイデアだった。


最初の20Km、いや30kmは非覚醒状態で行きたいから
ゾーンに入ろうとするが、なかなか入れない。
日差しが強かったのもあるかもしれない。
ただ、気持ちよく泳いでいた。


ふと気付いたんだが、搬送してくれる人によって
俺の精神状態が大きく変わる。
それはその人の性格や、信頼関係が出るのかもしれない。

今回(いつも搬送してくれる)誠は後半組の
ローテーションにいた。
そのため、最初はミネさん、たま、敦士の3人。


印象的だったのはミネさん、たまが笑顔でニコニコしながら
こっちを見たり、前を見たりしていた事。
これ、不思議と落ち着く。
こちらは水の中だから話せないんだが、こちらも笑顔になる。
敦士は高校からの仲だから、誠とは違った安心感がある。



そんな状況に、昔病気で入院し、意識が戻らなかった
健一おじいちゃんを思い出す。
おじいちゃんは意識が戻らなかったから、話せなかったし、動けなかったけど
もしかしたら、こちらの事は見えていたのかもな~。

話せずとも、人の笑顔には、人を安心させる力があるんだな~と再確認。
一方的でもいいから、もっと笑顔で話しかけてあげれば良かったなっと勝手な想
像を膨らます。


でも、もし、もしも俺が入院して同じ状況になったら
お見舞いに来てくれる人たちには笑顔でいて欲しいな。
それが、一番のエネルギーになると思う。


~ここから先はまた、後日書きます~