月を見た話 | ゴウヒデキのブログ

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人に食べるのを待たれるのが嫌な私は、誰かと食事をするとき、
相手より早く出てくるメニューを選ぶ。

先日も、知り合いとチェーンのうどん屋さんに行って、
私は月見うどん、彼は釜揚げうどんを注文。

「釜揚げうどんの方が時間がかかるな」

と安堵していたら、それが慢心にでもつながったのか、油断大敵。
私固有のスキルである「注文を忘れられる」が発動し、
釜揚げうどんが来る頃になっても、姿を見せない月見うどん。

たまらず私は、注文カウンターに行き、

「あの、月見うどんを注文し…」

と、そのあとに続く「たんですけど」を待たずに、

「今、茹でてますので、もう少々お待ち下さい」

と言う店員さんの、まさにその手が今、
後から来たお客さんに月見うどんを出しているところだったのが解せぬ。

席に戻って1分ほどで、月見到着。
その頃には、彼の丼には、すでに一筋のうどんも無し。

釜揚げは来るのは遅いが食べるのは早いのである。
一方、月見を食べるには、それよりもやや時間がかかる。
熱いのである。

それでも口中の皮がめくれるほどにヤケドするほどの熱さでもないから、
すすりにすすり、たぐりにたぐって、急いで食す。
すると、私の前に座る人は、

「気にせずゆっくり食べてください」

とスマホ横目に優しげまなこ。

「あー、そのセリフ、ほんとは俺が言うはずだったのに……」

などと邪念の湧き出る暇もなく、一心不乱に飲み下し、
どんぶりの底に残る黄色く濁った汁の月。
名残も惜しく、その月を見ながら、

「お待たせしました、出ましょうか」

さて、店を出る段。
前を行く彼に続いて向かう細めの通路。
右手に見えますのは注文する若者が背負う大きめリュック。
左手には、サービスの天かすを入れるのに夢中の若者がいて狭き門。

どちらの若者にも気付いてもらえず、心で泣き濡れ、店を出遅れ。
挙げ句に店先で、相手を待たせることになった次第であります。

折に触れ「相手を待たせないように」と気を遣っていても、
その気遣いは見えぬばかりかいたずらに人を待たせてしまうこともある、という好例である。