トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』読了。

(山室静訳)



冬眠中にひとりで目覚めてしまったムーミントロール。
初めて経験する冬。
不安と恐怖と寂しさ。
しかもフィンランドの冬だからお日様も昇らない、雪と氷だらけの寒くて暗い冬。
ムーミントロールは春夏秋には出会わない、こっそりと生きているような秘密めいた生き物たちと出会う。
パパの水浴び小屋には冬の間トゥーティッキが住んでいて、いろんなことを教えてくれた。
ちびのミイは相変わらずのマイペースでスキーやスケート、そり遊びに夢中。
よその谷の食べ物がなくて困っている大勢の者たちを屋敷に招いてジャムのストックをみんな振る舞って、家の中はめちゃくちゃ、大量にあったジャムもなくなってしまうのだが、
春になって目覚めたママは怒ったりしない。
ムーミントロールがちゃんとお客さんをもてなして、こんなに作ってどうするのと言われていたほどのジャムも役に立って、むしろ安心してくれる。
いろんなことがありながら、春の兆しが感じられるようになる頃には、ムーミントロールは冬が好きになっていて、特に長い冬の終わりに感じる歓びをずっと味わっていたい気持ちになる。
春が近づいて、トゥーティッキがムーミントロールにまたあたたかな陽射しの下で楽しい日々が過ごせるというような言葉をかけると、
ムーミントロールは、どうしてそれをぼくがさびしがっていた冬に言ってくれなかったのと嘆く。
トゥーティッキの答えは
「どんなことでも、自分で見つけなきゃいけないものよ。そして自分ひとりで、それを乗り越えるんだわ。」
春になってスノークのおじょうさんが目を覚まし、クロッカスの若い芽を見つけ夜の寒さから守ってあげようというと、ムーミントロールは言うのです。
「いや、そんなことだめさ。自分の力で、のびさせてやるのがいいんだよ。この芽も、すこしはくるしいことにあうほうが、しっかりすると、ぼくは思うな。」
人生、いろんなことがあるけど、何事も経験、そして自分を見失わず、1つ1つのことに向き合っていく姿勢が大切なんだね。
トーベ・ヤンソンの経験からくる優しさや強さ、自由さを滋味たっぷり味わえる1冊でした。