藤崎専務に連れて来られたのはちょっと変わったお洒落な店だった。
隠れ家的お店の様で、木戸の入り口には看板など一切出て無くて
入り口を入ってもそこにお店はなく・・暫く、燈籠の灯りが照らす石畳の路地を真っ直ぐ行くと
漸くイタリアンのお店に着いた。
専務が慣れた感じで暗証番号を入れるとドアの鍵が開いた。
「ここだよ、どうぞ中に入って。」
「はい。」
「いらっしゃいませ、藤崎様。」
「急に悪かったね？」
「いいえ、ご用意は出来てますのでこちらへどうぞ。」
にっこり笑う女性は背の高い綺麗な人だった。
コートを脱いで席に着くと飲み物のメニューリストが置いてある。
「牧野さんはお酒は大丈夫だよね？」
「いえ、私お酒は弱いので・・ノンアルコールでお願いします。」
「そうなの？じゃ俺は料理に合わせて何時ものワインを
彼女にはノンアルコールのワインを。」
「かしこまりました。お料理はお任せで用意しておりますが宜しいですか？」
「うんそれでいいよ。」
「はい。」
「専務はこちらのお店に良くいらっしゃるんですね？」
「まあ‥月に５回くらいかな？ここだと知り合いに会う事も無いし
会員制でね‥煩わしくないからね。
兎に角ここの料理もワインも美味いんだ。」
「そうなんですね。」
やっぱり、御曹司と言う人間はこういう馴染みの店を何軒も持ってるのが
普通なんだろうか？それも会員制。
西門さんには西門さんの、美作さんには美作さんの・・
類には類のお気に入りの馴染みのお店がある様に…。
そして、その何処のお店も一流シェフが居て最高のおもてなしを
してくれるんだと思ったら・・・
自分との違いを見せつけられる気がして少し嫌な気持ちになる。
「牧野さん食べないの？」
「…。」
「ねぇ、牧野さんどうかしたの？」
「あっ、ごめんなさい。何かおっしゃいましたか？」
「いや、食事が全然進んで無いみたいだから？」
「あゝ・・・」
いつの間にか自分の前に料理や飲み物が運ばれている。
それにも気付かず私は何をしてたんだろう？
「もしかして、料理が口に合わないかな？ここのシェフ業界では有名なんだ。
…３つ星のシェフだからさ・・。」
「すみません、考え事していて・・失礼しました。」
「俺の方こそ、急に誘って悪かったかな？類と付き合って居るならこういうお店も
慣れているかと思ったんだけど？」
「…。」
このお店より凄いお店なら知ってる。
道明寺の行く店は多分ここより高級だったと思う。
美作さん西門さんの連れて行ってくれるお店も然り
類の連れて行ってくれるお店は私に合わせてくれるので
美味しいけど肩ひじ張らない
可愛いお店が多いけど、そこのシェフの味は何処のお店にも負けてない。
藤崎専務は私には似合わないお店だから気後れしてると思って居るんだわ。
それならそれで‥何と思われても平気だけど・・。
早く帰りたい…。この人と食べても美味しいと思えない。
「一応、牧野さんは食事のマナーは分かってるみたいだけど
こういうお店では何時も食事はしないの？
類はあまり外食を好まないのかな？引きこもりみたいな時期があったらしいから。」
引きこもりだなんて‥類は寝るのが好きなだけだし？
外食より私の作った料理が大好きなだけなのに・・。
なんで、そんな嫌味を言うかな・・。
一応マナーだって美作家で習ってるから完璧だと思ってる。
「類とちゃんと付き合えてるの？あいつ言葉足らずだし何を考えてるか
分かんない処あるでしょう？まぁ、仕事は出来るらしいけどね？
…類との付き合いはもう長いのかな？ねぇ退屈しないの？」
「私は類の事を理解してますから。
退屈なんて一度も思った事ありません。あの・・やはり私にはここの
お店は合わないみたいです。折角連れて来て頂いたのに申し訳ありません。
お仕事の打ち合わせの件は月曜日でも間に合いますよね？
早急な件がございましたら、メールでお知らせください。
今日はご馳走様でしたお先に失礼します。」
つくしが席を立ち上がろうとしたら高崎専務がつくしの手を引っ張った。
「まだ、話は終わって無いよ牧野さん。
こんな処で騒いだら恥ずかしいでしょう？大人しく座って。」
「お話って何でしょうか？」
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