第一章:物置のナイフ(6) | Gift of Heaven ~神様の贈り物~

第一章:物置のナイフ(6)

「おまたせ。次は、何するの? いつもの様に磨り潰すの?」
「ん、磨り潰してくれる? 全部じゃなくて-半分ほどで良いわ。」
「うん、判った。」


 私は草を磨り潰す準備をして、エリスの隣に座ると、作業を始めた。


「エルトリア。さっきの話って何?」
 エリスも作業を続けながら、私に聞いてきた。


「あ、うん…物置にあったナイフ…あれは、何なの?エリスの物?それとも、フィー(※エルトリアの父)の物?」
「ナイフ…? 物置になんてナイフは置いてないでしょ??」
「あったよ、これ…」

私は、勝手に持ち出した事を叱られないか、内心ビクビクしながらも袋から例のナイフを取り出して、エリスの前に差し出した。


「あ~、これね。良く見つけたわね~。でも、これはナイフじゃなくて懐剣って言うのよ。それ位知ってなさい。」
 エリスは、まるでなんでもないかの様にその懐剣を受け取りながら、笑ってそう言った。


「懐剣…? エリスの物なの? それは、なに? どうしてそんなのが家にあるの?」
 私は色々聞きたい事が次から次に浮かんで、一気にエリスにまくし立てた。


「これは、私の物だけど、フィーの物でもあるわ。二人で貰ったの。」
 そう言いながら、愛しむように懐剣を眺めている。

「貰ったの? そんなに高価な物を? 誰に?」
「ふふふ~。知りたい? 当ててごらん。」
 意地悪そうに返事をするエリス。


「ん…王女さま?」
「ブッブー! 外れ。」
「じゃあ……ん~~~…町長とか?」
「違うよ~。」
「え~~~…思いつかないよ、高価な物をくれそうな人って。エリスのお父さん?」
「全然違う~。うふふ。」
 エリスは楽しそうに笑いながら、そう返事をした。


「わかんない、教えてよ。」
「え~、どうしよっかなぁ~。」
「そんなに意地悪しないで。ねぇ。」
「ん~、仕方ないなぁ。じゃあ、明日も真面目に手伝ってくれる?」
「えぇ……う~ん、でも、ヤトと約束してるの。」
「少しくらいなら、良いわよ。そうね、ヤトとは午前中に遊んで、お昼からは手伝ってくれるなら教えてあげよう。」
「う…うん、わかった。手伝うから、教えて。」
 その懐剣の事はとても気になったし、遊ぶ気持ちにもなれなかったから、渋々承諾した。


「ふふ。これはね、グレイグに貰ったの。」
「グレイグ? グレイグって…誰?」
「あなたも知ってるわよ。ふふふ。」
 グレイグ…??そんな人、いたっけ?


「思い出せないや、フルネームはなんて言うの?」
「フルネームがグレイグよ。聞いた事は有るでしょう?」
「え~、そんな知り合い、いないよ。」
「有名だから、名前は知ってるでしょう?」

 グレイグ…グレイグ…??


「やっぱり判んないよ、ヒント頂戴~。」
「ヒント?そうね、ウンディーネって呼ばれる事もあるわね。」
「は? ウンディーネって、あのウンディーネ? グレイグって…はぁ?」
「クスクス、そのグレイグよ。」
「もぅっ! そんな事ある訳無いじゃない。冗談言ってないでほんとの事教えてよっ!」


 そりゃ、確かにそのグレイグなら知ってるわ。グレイグ、金色の髪の美人。船遊びが好きな、若い女性。
 確かにこの剣を彼女が持っていても不思議じゃあ無い。けど…


「でも、本当なのよ。お昼に招待したら、音楽を披露してくれて。お上手ねって褒めたら、これをくれたの。」
「ねぇ、それ、マジメに言ってるわけ?」

 私は呆れて、そう聞き返した。

「そりゃあ、もう、大真面目よ。嘘だと思うなら、フィーに聞いてごらんなさい。」
 思いがけず、マジメな顔でそう言われて、私はちょっと怖気づいた。


「う…でも、そんなの信じれる訳無いじゃない…フィーに聞けば判るのね?」
「うん、聞いておいで。うふふ。」


私は立ち上がって、フィーの作業部屋に行くと、フィーに話し掛けた。

「ねぇ、フィー。 グレイグに会った事、あるの?」
「ん? 突然どうしたんだい、エル。」
「だーかーらー。グレイグに会って、懐剣を貰った事、有るの?」
「ん? あぁ、あの懐剣ね。そうだよ、グレイグに貰ったんだ。綺麗だろう?」
「ねぇ、グレイグってどこの人なの?」
「なにを言ってるんだい、グレイグっていやぁ、あの湖のグレイグしかいないだろう。」
「金髪の? パンとチーズが好きな?」
「そうだよ。エル。悪いんだけど、ちょっと今、手が話せなくて…続きはエリスから聞いてくれるかな?」
 作業を続けながら、フィーはそう言った。


「ね、本当に本当なの? 嘘だったら、酷いわよ?」

 私はやっぱりとても信じられなくて、もう一度フィーにたずねた。
 フィーは、やれやれ、という感じで手を止めると、私の方を見て言った。


「本当だよ。懐剣は、見ただろう? あんな懐剣を持っている人がいると思うかい? グレイグは、話の通りの人だったよ。エルは、僕の事も、エリスの事も、どちらも信じられないのかい?」
 マジメにそう言われて、言い返す事が出来なかった。確かに、本当にグレイグから貰ったなら…納得もいくけど…

「ごめんなさい…信じられない訳じゃ無いけど…」
「ふふ、まぁ、いきなり信じろって言っても疑うのは当然だよね。でも、信じて欲しい。嘘じゃないよ。さ、それで良いかな? 良ければ、続きはエリスに聞くか、後にして欲しいんだけど…」
「うん…判った。ありがとう。」


 グレイグ。湖にいるという精霊。精霊が本当にいるなんて、信じられないけど…でももしそれが本当だとしたら、怒らせたら湖に引きずり込まれ、二度と帰れなくなる、という、怖い精霊。どうしてそんな精霊から懐剣を貰う事が出来るのか…

私は、不思議に思いながらエリスの所に戻った。


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