オリンピックも始まったということで
今日はオリンピックの話題…ではなく
スポーツつながりで
中1の時
"持久走大会"で学んだ大切なこと
っていうお話。
☆彡
私はスポーツ全般が
まったく得意ではないので
体育関連で"なんとか大会"があるとなると
とても憂鬱になる。
特に
3学期が始まって
冬のいちばん寒い時期に行われる
"持久走大会"。
もう
字のイメージからして
『つらいことをどこまでがまんできるか』の大会みたいで
ほんとに嫌だった。
厳しい寒さの中で
厳しいことをする。
ただでさえ何のいいことも予想できないのに
私はクラスで…いや学年でいちばん
運動ができないので
つらくて厳しくて恥ずかしいイベントでしかなかった。
☆彡
中学1年の時。
私が
いちばん仲のよかった友だちというのが
どういう訳だか
自分とは正反対の
クラスで…いや学年でいちばん
運動のできるKちゃんだった。
☆彡
3学期に入ってからの体育の授業は
ほとんど持久走の練習。
他に跳び箱やマット運動があっても
ますは最初に校庭10周をやってから。
給食が終わったお昼休みにも
それぞれ自主練をしたりして。
もうその走り方を見てるだけで
だいたいどの子が上位に入るか予想できる。
本人も期待されてるのがわかるから
練習にも力が入る。
☆彡
Kちゃんというのは
あんまり真面目に
地道にやるタイプではなかったから
「練習なんてだるい」みたいな態度で
授業でやらされる以外は
ほとんど何もしていなかった。
でもきっとKちゃんは3位以内に入るだろうな。
私はビリか
よくてもビリから2番目くらいだろうな。
なんて毎日思いながら
暗い気持ちで迎えた
持久走大会当日。
☆彡
女子というのは
よく仲のいい子どうしで
「一緒に走ろうね」とかいう話になることがある。
でも途中からペースが合わなくなって
結局は別々になってしまうものだ。
だからあんまり
約束しても意味がない。
ところが
本番が始まる直前になって
Kちゃんが言った。
「一緒に走ろ!」
「えっ!?」
私は耳を疑った。
☆彡
Kちゃんとは中学に入ってから
初めて知り合った。
小学校は別々のところから来たから
お互いのことはまだ
よく知らないことの方が多い。
それにしたって
1学期2学期と
体育の時間の私の有りさまを
さんざん見てきたのだから
運動に関しては
実力の差が
文字通り「天と地」くらいあるのは
わかってるでしょ。
それにそんな
「女子」が言うようなことを
男っぽくてさばさばした性格の
Kちゃんが言うなんて。
でもなぜかその時
私は勢いで
「うん」と言ってしまったのだ。
☆彡
それはその場の空気の
ノリみたいなのもあって
すごく軽く楽しそうに
何でもないことのように言われたのと
私はKちゃんをひそかに尊敬していて
そんなことを言ってもらえたのが
すごくうれしかったから。
なんだか
かっこ悪い返事はできないな
って思って。
でも言ったはいいけど
大丈夫かな…。
不安になり始めた私の表情を
察知したのか
Kちゃんはニヤリと笑ってみせて
「ついて来いよ」
と男ことばでひとこと残して
もう向こうへ行ってしまった。
☆彡
そうか。
「私には無理」と思うだろうなってこと
わかってて言ってくれたんだ。
それは
女子特有の
「私たち友だちよね?
だからどっちかが抜けがけしたりしないで
一緒にゴールしましょうね」
みたいなウエットな意味ではなくて
「友だちだから
一緒に走って一緒にゴールするの
楽しいでしょ?」
というさらっと軽やかな提案だった。
☆彡
スタート前。
みんなざわざわ緊張して
妙な笑いがここみ上げてきたりして
飛び跳ねたり
キャーキャー何か言ってみたり。
心臓がドキドキする。
「とばして行くからな」
言われたのに気がついて横を見ると
前を見たまま不敵な笑いを浮かべて
でもいつもよりちょっと真面目な表情の
Kちゃんがいた。
「うん」
私ももう覚悟を決めた。
先生の「よおーい」という声のあと
ぱーん
とピストルの音がして
みんな一斉に走り出す。
☆彡
私はとにかく
遅れないようにという一心で
Kちゃんの姿を目で追う。
ぐんぐん
Kちゃんは前へ出ていく。
えっえっ
ちょっと待って。
そんなに前に行くの?
あっと言う間に
いちばん前。
私も横に並ぶ。
「このまま行く!」
もう笑わずにKちゃんが言う。
「うん」
すごい。
前の方の人って
こんなにペース速いんだ。
私はいつもあきらめてるから
「もう
みんなのあとについて
なんとか最後まで走れればいいや」
って思ってるうちに
どんどん抜かされて
すぐにいちばん後ろになる。
勝ちに行く人って
最初から心構えが違うんだ。
そんなことに驚きながら
必死でKちゃんのペースについていく。
☆彡
それは
今まで生きてきて
初めて見る景色。
自分の後ろに大勢の人たちがいる。
運動会で一等になる人の
胸でテープを切る姿が
うらやましかった。
あの人たちは
いつもこんな景色を見ていたんだ。
☆彡
それにしても
息が苦しい。
途中に先生が立って何か言ってる。
「はいがんばって~、あと半分!」
ペースが落ちてきた私を気遣うように
Kちゃんもスピードをおとす。
何人かが横を通って
抜かして行くのが目に入った。
私のせいで
Kちゃんまで遅くなってしまう。
せめて今のペースはキープしなくては。
なんとかこのまま走りたい。
でももうこれ以上は限界。
そう思ったとたん
それまですぐ目の前にあったKちゃんの背中が
すーっと遠のいていった。
Kちゃんはちらっと横目で見て
私の姿がないのがわかると
一気にスピードを上げて
前を走る子たちを追いかけて行った。
☆彡
やがてゴールが見えてきた。
もう心臓が爆発しそう。
耳が冷たくて感覚がない。
息が苦しい。
先に着いた子たちが
ゴール横にたまってる。
Kちゃんの姿も見える。
順番に
ゴールする子の腕をつかみながら
先生が「○位」「○位」…と順位を告げて振り分ける。
私も腕をつかまれて
「はい、7位」と言われて
「えっ!?」と驚く。
40人学級の半分が女子だとして
7クラスだから
20×7=140
走ったのが全部で140人だとして…
その中の7位?
ひとケタ?
140位だったかもしれない私が!?
☆彡
後半でずいぶん
抜かされた気がするのに
それでも最初にあれだけ
Kちゃんにつられてとばしていたから
ふだんの自分だったら
到達できないようなところまで
引っ張り上げてもらえたんだ。
☆彡
Kちゃんは
聞いたら3位だった。
私がいなかったらたぶん1番だったんだろうな。
「ごめん」と言うと
Kちゃんは
「なんだよ、途中で急に消えちゃって」
と冗談ぽく笑った。
3位までの子は表彰されることになっていて
Kちゃんも入っていたから
ああよかったと思った。
☆彡
持久走大会が終わって
次の日。
「何位だった?」という話を
みんなが話していて
私が「7位」と答えると
「すごーい!」と言われた。
☆彡
自分とは
まったく違うレベルの人の世界。
そこにいる人から
ぐいっと引っ張ってもらうと
こんなことも起こるんだ。
でもそれでも
実際にやり遂げたのは
まぎれもない自分。
確かに苦しくて
それが普通にできる人とは
難易度が違うけど
でも
絶対できないというのは思い込みで
やってみたらできることもあるんだ。
私はそれを
中1の時にKちゃんから教えられた。
☆彡
そういうことは
誰にでもあるのかもしれない。
勝手に自分でできないと思い込んでいること。
できるかもしれないけど
多分無理だろうなって思っていること。
自分の力は
自分で思っているほど
小さくはないのかもしれない。
君の実力は
そんなものじゃない。
そう思いませんか?
今日のひとことコーナー
人生って持久走のようなもの。
人は誰でも孤独なランナー。
どんなに応援してもらっても、誰かに代わりに走ってもらうことはできない。
でもだからこそ、自分の自由に走ることができる。
スピードを上げたり、休んだり、寄り道したり迷走したり。
疲れた時には温泉にでも立ち寄って、自分のペースで進んでいけたらいいですね。
- 午後のうさぎ -