前回は、
「投資銀行」とは何ぞや?について外部からの視点で書いてみました。
この投資銀行で、博士が活躍可能なキャリアとしては
「クオンツ」と呼ばれる数理面(金融工学)での専門職があります。
むしろ、博士であることがアドバンテージにもなり得ます。
特別な資格などが必要なわけではなく、
日本ではまだまだ数も足りておらず今後も需要が高い専門職なので、
結構おいしいかもしれません。
ですが、
とりあえず僕は業種を限定せずに活動しています。
外資系銀行の採用要綱も出そろってきたので、
メモにまとめてあります(リンク)。
外資系銀行のことを知ろうと思って
新卒向け採用サイトを覗いてみると部門別採用なので
インベストなんたからからマーチャントかんたらまで
なにやら色々あってどこが何をやっているのか分かんないです。
インターンの時なんて、分からないままに応募してました(実は…)。
会社によってはいくつか併願可能なのですが、
むやみに併願したら、志望動機の浅さを見抜かれてしまうことでしょう。
今回は、投資銀行内の部門と役割について調べてみました。
***
どこの投資銀行も大きく分けて以下のような部門を持っています。
・投資銀行部門
・セールス部門
・トレーディング部門
・バックオフィス(人事など事務部門)
(セールスとトレーディングをまとめてマーケットとも呼びます。)
実は、これらの部門間には
バリア(チャイニーズウォール=万里の長城)があって、
部門間の情報交換には厳しい制限があるのです!
例えば、
投資銀行部門がM&Aを計画中であることを
トレーディング部門にばらしたら
M&A先の企業の株を買って大儲けですが、
これほど分かりやすいインサイダー取引はありません。
それに、セールス部門のリサーチの人が
「企業の投資評価を上げたらそれだけで市場が動く」のです。
ここでもお互いに情報は渡せません。
もちろん、きちんとしたルールがあるのですが、
ずいぶんと微妙な綱渡りみたいにも見えます。
BNPパリバが最近ニュースになってましたが(リンク)、
ちょっと気を緩めると大変なことになっちゃう世界ではありますね。
それでも、
これらの部門が同居する意義は大きくて、
例えば、
投資銀行部門がM&Aを手がける時に
顧客企業は莫大な資金が必要となりますが、
そのための新たな株や債権の購入者を探したりするには
セールス部門などとの連携が効果的に機能するのです。
トレーディング部門は上の役割分担という意味では、
余分な部門にも思えるのですが、
自己資金での売買で多額の利益を稼げるので外せないのでしょうね。
さて、だらだらと書きましたから、
もう少しきちんと部門ごとの役割をまとめてみたいと思います。
・投資銀行部門(IBD)
Investment Banking Division、略してIBDと呼ばれることが多い。
この部門は「花形」なんて言われたりする一方で、
「モンキービジネス」と揶揄されたりもします。
いったいどちらが正しいのでしょうか?
まず、(名前のまんまですが)
投資銀行の中で中心的な業務(企業のM&Aや資金調達)を
行なっているのは確かです。
そして、他部門の社員さんからも聞いたのですが、
労働時間が際立って長いです。
「今日は24:00か。早ぇ~な~。」
という感覚だそうです
噂の限り、全職業の中でも労働時間が最長の仕事の一つです。
給料も他部門に比べて高いのですが、稼ぐためなのなら
トレーディング部門とかで一発当てる方法もありかもしれません。
もう少し業務内容に踏み込んでみましょう。
企業のM&A(合併と併合)や資金調達の手助けによって手数料を稼ぐ
というのが基本のビジネスです。
景気による影響も大きいと言えます(どこもでかいか…)。
大手の外資では、
ある程度大きいディール(契約)でないと扱わないのですが、
それだけに取扱額は一件当たり数十~数千億円にもなります。
社員さんのだれもが
「自分の仕事が新聞の一面に載った」というのが普通な訳です。
手数料は1~3%くらいなので
それだけで、数十億円もの利益になることもあります。
それでも各社の投資銀行部門の要員は
百名やそこらしかいないというのはちょっと驚きです。
これだけ大きな額を扱うにも関わらず、
一つのプロジェクトに関わるのは5人とか10人くらいのチームで、
さらにコンサルタントや弁護士や会計士などと連携して進めます
「少数精鋭の機動力に強みがある」的なことも言ってました。
企業の事業種ごとに担当チームが分けられています。
それだけに、
契約を取るかどうかにチームの命運がかかってくるし、
地道に顧客会社に提案を続けて、良好な関係を維持し、
長い時は十年以上もかけて契約に漕ぎつけるという
「泥臭い」仕事でもあるようです。
こりゃー、寝れません。
チームワークが特に強調される部門でして、
ESを書くなら何かそういうアピールも入れとくのがいいでしょうね。
他部門ほどは英語力が要求されない場合もある、
というか他部門はかなりの英語力が必要と言った方が正しいか。
少なくとも入社2,3年のアナリスト時代は、
睡眠時間3時間で資料の山とプレゼン作りに
格闘する日々となるでしょう。
モンキービジネスと言われる所以です。
では次。
・セールス部門
株式、債権、コモディティー(石油、小麦、ナンデモカンデモ)などの
ホールセール(法人向け売買)を仲介して手数料などを得ます。
外資系では個人を対象とするリテールはほとんどありません。
だから、日常生活で出くわすことがないのですね。
法人などの顧客にこまめに連絡を入れて商品を買ってもらうという
セールスによる手数料収入が商売の基本なのですが、
リサーチやリスク分析のストラクチャリングなど
いわゆるクオンツが活躍するような部門もあります。
顧客の信頼をつかむためには、
セールスをバックアップする情報力や分析力が効いてくるからです。
リサーチ部門では、株などの変動リスクを予想する
株式アナリストに対して業界での人気投票なども行われて、
個人の予測実績が業績として直に反映するシビアな世界でもあります。
また、商品ごとに、国や地域などの担当が細かく分かれています。
「株式は明るくて、債権は暗い」
なんていう言葉もあるくらいに、
取扱内容によって部門の様子も全然違ったりするそうです。
まあ、
株なんて各企業の予測不能な出来事で株価が乱高下する
博打か権謀術数みたいな世界なわけで、
世界の大局的な情勢で価格が日々変化する債権とでは、
必然的に雰囲気も変わってくるのでしょうね。
こういう話はけっこうあちこちで見聞きすることができて、
同じように価格変動の予測をするという目的であっても
例えば、クオンツの人は学者肌で黙々と机に向かい、
一方でトレーダーたちは賑やかで
時々叫んだりしながら相場と格闘している、
といった印象らしいです。
僕は、やっぱり学者なので「よっしゃ!!」「ちっくしょー!!」なんて
叫びながらガツガツ仕事をするのが向いているとは思いません。
ところで、これらのマーケット部門は朝が早いです。7:00AMとか。。
株式市場が開く前に準備が必要ですからね。
でも晩にはきちんと帰れたりするようです。
億単位の取引を日々こなしますから、
「集中力が必要とされる仕事」だそうです。
そんな感じでトレーディングを見てみます。
・トレーディング部門
ここで思い浮かぶのは、
3つも4つもPCのディスプレイを並べ、
両耳に電話機をして秒を争う取引に没頭するトレーダーの姿です。
こういう外資系金融や証券会社の典型なイメージのような、
自己勘定投資で利潤を追求しているのがトレーディングです。
(セールスも似たような感じはあるでしょうが。)
最近では、個人投資家でもWebを通じて
即座に世界中のリアルタイムの情報を得られるようになっています。
それでも外資系証券が優位に立てる理由、
彼らは言います、
「私たちは、ほんのちょっとだけやり方がうまいだけだ。」
どううまいのか?
ニュースではGSが証券取引所から
0.03秒だけ早めに情報を得ていたことが報道されています(リンク)。
近年では、証券取引のうち?%くらいがロボットによる
自動売買になっているそうで、
0.03秒の速さが決定的な差にもなり得るのです。
こういうところでIT部門がさらにバックアップします。
たしかにちょっとだけうまい…、というよりせこい…!
そんなこんなで、時に数千億もの利益を稼いでいるなんて。
個人の力量が物を言う世界ですから、
それこそ数十億円も稼ぐトレーダーも出てくるわけです。
出入りが激しそうですが、相場の才能があれば是非どうぞ。
トレーディングに使うプログラムの開発なども
クオンツの重要な仕事の一つです。
テクニックの蓄積がものをいう世界でもあるそうで、
それを専門に開発して提供している企業もあります。
興味があれば調べてみてね。
外銀では、日本のクオンツは開発にはあまり関わらなくて、
地域に合わせた調整などを業務とする場合が多いそうです。
→参考:金融日記
欧米での主流は
数学、理論物理のPhD→ポスドク数年orメーカー勤務→ジュニア・クオンツとして投資銀行入社
と言った感じです。
しかし、このように本格的なPhDのクオンツを定期的に採用しているのはニューヨークやロンドンのオフィスで東京オフィスの方では定期的には採用していないのが問題です。
(まあ、「外資」なので。しかし、最近は日本の金融機関も外資のような組織になっているらしく、クオンツを採用しています。)
外資系投資銀行のクオンツ・モデルの開発はだいたいニューヨークかロンドンで行われ、東京ではそれらのモデルのチューニングや日本市場特有の問題を解決したりします。
***
内容は、とりあえず以上です。
僕の自分用のノートをそのまま公開しているだけです。
ちょっと長くなって内容が一貫していないところもあるし、
また気になる点が出てきた時に書き足していく予定です。
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参考:就活で出会う様々な方々のお話。Thanks.
参考文献:
『図解 株式市場とM&A』 保田隆明
『投資銀行青春白書』 保田隆明 ←外資系志望者に超お薦め
(あとがきより、著者の面接での実話、
「聞きたいのは3つだけだよ」
「はい……」
「あなたは誰?なぜこの業界に入りたいの?そしてその中でどうしてうちの会社に入りたいの?」)
以上の本は過去の記事で紹介したものです。
『投資銀行業界大研究』 斎藤裕
『ウォールストリート投資銀行残酷日記―サルになれなかった僕たち』
参照サイト(リンクになってます):
・外資系への道標
・Infinity Campus
・Thomson Reuters