◎「はた(旗)」

ある程度の面積をもった布片や紙片を棒状の物の先端に設置し、様々なことの伝達や意思表示たる目印にするもの。この布片や紙片には様々な色が塗られたり、さまざまな形象が描かれたりもし、様々なことの印や意思表示にする。この「はた」はある程度の広がりをもった布片の翻(ひるがへ)りを表現する擬態。H音による発生存在とT音による思念確認による擬態表現。織物機や織物、「テフ・チョウ(蝶)」の古名と思われる「はた」もこの擬態。「ばった(飛蝗)」の別名の「はたはた」もこの擬態。

「隠(こも)り国(く)の 泊瀬(はつせ)の山(やま)の 大峰(おほを)には 幡(はた:波多)張(は)り立(た)て…」(『古事記』歌謡89)。

「幡 ………和名波太」(『和名類聚鈔』:この語、本書の「伽藍具」と「征戦具」の部にある)。

「是(こ)の月(つき)に、皇太子(ひつぎのみこ)天皇(すめらみこと)に請(まを)したまひて、大楯(おほたて)及(およ)び靫  靫 此(これ)をば由岐(ゆき)と云(い)ふ を作(つく)り 又(また)旗幟(はた)に繪(ゑが)く」(『日本書紀』:ここに「皇太子(ひつぎのみこ)」とは、聖徳太子)。

 

◎「はた(機・織物)」

縦糸に横糸を入れ、縦糸面が羽ばたくように交差しまた横糸が入れられる…そうした機織り機の動作、羽ばたくような動作、に由来する擬態が「はた(機・織物)」(「はた(旗)」の項参照)。機織り機も、それによりなされた織物も、意味する。機織り機が用いられる以前から織物はあったであろけれど、それは「はた」ではなく「おりもの(織物)」だったということです。

「女鳥(めどり)の 我(わ)が王(おほきみ)の 織(お)ろす機(はた:波多) 誰(た)が料(たね)ろかも」(『古事記』歌謡67:「織(お)ろす」は「織(お)り生(お)ほす」。「料(たね)ろかも」の「ろ」は同母関係を表現する「いろ(同母)」→「ろ」の項)。

「未通女(をとめ)らが織(お)る機(はた)の上(へ)を真櫛(まくし)もち掻上(かかげ)栲島(たくしま)波の間ゆ見ゆ」(万1233)。

「機 ……………高機 多加波太 今案機巧之處 和加豆利」(『和名類聚鈔』)。