◎「はしり(走り)」(動詞)
「はせいいり(馳せい入り)」。「はせ(馳せ)」はその項。「い」はI音の進行感により持続感を表現する(→「い隠(かく)る岡(をか)を」(『古事記』歌謡99)、「い及(し)け鳥山」(『古事記』歌謡60))。「~いり(~入り)」は、「驚(おどろ)き入(い)り」その他のように、全く「~」の状態になること。この場合は「はせ(馳せ)」がまったく持続した動態になる。この「はせ(馳せ)」は自動表現。
「すべもなく苦しくあれば出(い)で走(はし)り(波之利)去(い)ななと思へど兒(こ)らに障(さや)りぬ」(万899)。
「霜(しも)の上に霰(あられ)た走(ばし)り(多婆之里)いやましに我れは参(ま)ゐ来む年の緒(を)長く」(万4298)。
「「誰(た)れと知られで出でなばや」と思せど、しどけなき姿にて、冠(かうぶり)などうちゆがめて走らんうしろで(後ろ姿)思ふに…」(『源氏物語』:この「はしる」は「慌(あわ)てて逃げる」)。
◎「はしりで」
「はしいりで(端入り出)」。端の域が入ったり出たりしている単調ではない地形状態を表現する。「はしりでの堤(つつみ:土手)」や「はしりでの山」といった言い方をする。
「…我がふたり見し はしりでの(趍出之) 堤(つつみ)に立てる 槻(つき)の木の…」(万210)。
「こもりくの 泊瀬(はつせ)の山 あをはたの 忍坂(おさか)の山は 走出(はしりで)の よろしき山の 出立(いでたち)の くはしき山ぞ あたらしき 山の 荒れまく惜しも」(万3331:これは挽歌。忍坂(おさか)山(奈良県桜井市)周辺は古墳が多い。「おさか(忍坂)」は「おしはから(押し葉族)」か? 「は(葉)」は時間を意味する→「はは(母)」の項。押す時間の族、とは、時を進める、影響力のある、人たち。そうした人が葬られる地だったのかもしれない。「こもりく」は「籠(こも)り気(け)居(ゐ)」。籠(こも)った気(け)で居(ゐ)る。「はつせ(初瀬)」は「はつそへ(葉つ添へ)」。「は(葉)」は時間を意味する。「つ」は帰属を表現する助詞。「そへ(添へ)」は、後世で言えば「(お供(そな)へ、の)そなへ」のような表現。時間をお供(そな)えするところ)。