◎「はさみ(挟み)」(動詞)
「は(端)」は、対象の環境に対する表面域も意味する(→「山の端(は)」(「は(端)」の項)。その、対象の環境に対する表面域をはたらきかけること(そのはたらきかけにより、はたらきかけられたものが、はたらきかけたものに対する表面域になる)を意味する「はし(端し・挟し)」という動詞表現があったものと思われる(この語は食器の「はし(箸)」という語もうみだしている)。その「はし(端し・挟し)」による、「はしはみ(挟し食み)」が「はさみ(挟み)」。「はみ(食み)」は「かみ(噛み)」に似た語。これは歯で銜(くは)へ何かを維持するような動態になる。そのための道具が用いられることもある。さらに、そこに力が加わり挟まれたなにかが切断されることもある。その道具も「はさみ(鋏)」と言い、動詞「はさみ」がその道具を用いること、すなわち何かを切断すること、を意味することもある。「Aをはさむ」はAを対象として「はさみ」をおこなう。「AをBにはさむ」はAをBにはさまれた状態にする(Bで「はさみ」をおこなう状態にする)。
「はさめ」という下二段活用表現もありますが、これは「はしはめ(挟し嵌め)」。意味は事実上「はさみ」と変わりませんが、切断の意味は起こらないでしょう。
「…みどり兒(ご)の 乞ひ泣くごとに 取り与ふる 物しなければ 男じもの わきばさみ持ち…」(万210:これはみどり兒(ご)を残し妻が亡くなった際の歌であり、なれない男がまるで荷物をもつように子をわきに抱えているということ)。
「うれへ文をつくりて、文挿(ふんばさみ)にはさみて出立給ふ」(『宇津保物語』)。
「御髪(みぐし)おろしてむ、とせちに思したれば、忌むことの力もや、とて、御いただき(頭頂部を)、しるしばかりはさみて」(『源氏物語』:ほんの少し形式的に髪を切った)。
「左右の殿上人、階(きざはし)をはさめて欄干に候て…」(『古今著聞集』:これは「はさめ」)。
◎「はさまり(挟まり)」(動詞)
「はさま(狭間)」の動詞化。「はさま(狭間)」(その項)の状態になること。挟まれた状態になること。
「(雷神は)卽(すなは)ち少(ちひさ)き魚(いを)に化(な)りて、樹(き)の枝(また)に挾(はさま)れり」(『日本書紀』)。
「をしふせて、たゞ犯におかさんとて、またにはさまれてあるをり、この女を見れば、我師の尊者なり」(『宇治拾遺物語』「優婆崛多弟子事」:尊師に「女人に近づくな」と常々言われていた弟子が、あるとき、溺死しそうな女を救い体に触れ情欲し夢中になり女の股にはさまれつつふと顔を見たらその女は尊師だった、という話)。
「間 ………………ハサマル……アヒダ」(『類聚名義抄』)。