◎「はえ(生え)」(動詞)

「はや(早・逸)」の動詞化。動態進行に意外感・今までなかった新鮮感、があること。基本的には植物の芽生えを言う。毛の発生なども言いますが、それは応用表現でしょう。「はや(早・逸)」は「はやし(早し・逸し)」の項参照。

「…打橋に 生ひををれる 川藻もぞ 枯るれば生(は)ゆる(波由流)」(万196)。

「柳こそ伐(き)れば生(は)えすれ(伴要須礼)世の人の恋に死なむをいかにせよとぞ」(万3491)。

「きびすに髭がむつくりむつくりとはへたりなり」(「狂言」『丼礑(どぶかつちり)』:「どぶかつちり」は水になにかが落ちた「どんぶり」と石どうしなどがぶつかる「かっちり」の、どちらも擬音)。

「ハエル おふ 草木ノ生スルナリ ハエテアルハおふるト云」(『詞華新雅』)。

 

◎「はえ(映え)」(動詞)

「はや(早・逸)」の動詞化。動態進行に意外感・今までなかった新鮮感、があること。その意味では「はえ(生え)」(その項)と同じなのですが、「はえ(生え)」の場合は対象それ自体の動態進行ですが、「はえ(映え)」の場合は、対象の、情況との相関関係における情況進行に意外感・今までになかった新鮮感があることを表現する。つねに対象と情況との相関関係がある。

「いとよくほほゑみたるまみ口つきの、火のあかきにはえてにほひたる物から」(『落窪物語』)。

「…うちながめ給ひて、涙のこぼるるを、かき払ひ給へる御手つき、黒き御数珠に映えたまへるは…」(『源氏物語』)。

「大納言殿のまゐり給へるなりけり。御直衣(なほし)、指貫(さしぬき)の紫の色、雪にはえていみじうをかし」(『枕草子』)。

「あやしくも いとふにはゆる心かな いかにしてかは 思ひやむへき」(『後撰和歌集』:「厭(いと)ふに映(は)え」という慣用的な表現がある。(恋において)相手に厭(いと)はれるとそれによりさらに心情が熱く熱を帯びるような状態になってしまう、という意味)。