◎「ぬひ(縫ひ)」(動詞)
「いにゆひ(「い」に結ひ)」。語頭の「い」は無音化した。「い」は進行感を表現する(「い(射)」や「いき(行き)」など)。「に」は動態の状態を表現し、「ゆひ(結ひ)」は一体化すること。「いにゆひ(「い」に結ひ)→ぬひ」は、進行的に一体化すること。一体化されるわけですから、それ以前は一体化していない。後世では「(針と糸で)布を縫ふ」(布の一体化を形成する)といった用い方をするのが一般ですが、古くは笠(かさ)を(菅(すげ)の葉などで)作ることなども「ぬふ」と表現した。
「かきつはた開沼(さきぬ:奈良市佐紀町)の菅(すげ)を笠に縫(ぬ)ひ着む日を待つに年ぞ経にける」(万2818:「菅(すげ)を笠に縫(ぬ)ひ」が男女の関係になることを意味するらしい。挿(す)げ、傘(かさ)になる→重(かさ)なる、ということか?。「真野(まの)の池の小菅(こすげ)を笠に縫はずして人の遠名(とほな)を立つべきものか」(万2772:男女の関係もないのに噂をひろめてよいものか)。
「会はむ日の形見にせよとたわや女(め)の思ひ乱れて縫(ぬ)へる(奴敝流)衣(ころも)ぞ」(万3753)。
「帰りたまひて、まづこの袋を見たまへば、唐の浮線綾(ふせんりょう)を縫(ぬ)ひて…」(『源氏物語』:この「縫(ぬ)ひ」は織りなのか刺繍なのか、ですが、「浮線綾(ふせんりょう)」は元来は織りの名)。
◎「ぬべみ」
「ぬべくみ(~ぬべく見)」。「く」の脱落。「ぬ」は完了の助動詞。「べく」は助動詞「べし」の連用形。当然~となるであろうと見(そう判断し)、の意。
「天飛(あまだ)む 軽嬢子(かるをとめ) 甚(いた)泣(な)かば 人(ひと)知(し)りぬべみ (私は)幡舎(はさ)の山(やま)の 鳩(はと)の 下泣(したな)きに泣(な)く」(『日本書紀』歌謡71:「幡舎(はさ)の山(やま)」は未詳)。
「…見るごとに 恋はまされど 色に出でば 人知りぬべみ 冬の夜の 明かしもえぬを 寐(い)も寝ずに 我れはぞ恋ふる 妹が直香(ただか)に」(万1787)。