◎「ぬ(瓊)」

「ぬれひ(濡れ日)」。「ぬる」のような音(オン)を経、R音は退行化し「ぬ」になった。美しい石を言う。「ぬれ(濡れ)」はその項。濡(ぬ)れ)た日のようなもの、ということですが、表面が、常に濡れているような艶(つや)やかなもの、ということ。玉(ギョク)、美しい玉、を言う。事実上同意と言ってよい語に「に(瓊)」がある。

「故(かれ)、二柱神(ふたはしらのかみ)、天浮橋(あめのうきはし)に立(たたし) 訓立云多多志 て、其(その)沼矛(ぬほこ)を指(さ)し下(お)ろして畫(か)きたまへば…」(『古事記』)。

「廼(すなは)ち以天之(あめの)瓊 瓊、玉也、此云努(ぬ) 矛(ほこ)を以(も)て、指(さ)し下(お)ろして探(かきさぐる)」(『日本書紀』)。

 

◎「ぬえ(鵺)」

「のふえ(野笛)」。野で笛を吹いているような声を発するもの、の意。元来は鳥の一種の名であり、トラツグミの古名らしい。ただ、夜に、森の中などから、細い声が聞こえてくるため、怪鳥、怪獣、さらには妖怪が空想され、それが「ぬえ」と呼ばれるようになっている。

「…我が立たせれば 青山に 鵼(ぬえ:奴延)は鳴きぬ……庭つ鳥 鶏(かけ)は鳴く…」(『古事記』歌謡2)。

「鵼 ……沼江 恠鳥(空想上の鳥)也」(『和名類聚鈔』)。

「鵼 ぬえ  倭名抄載 唐韻云鵼拵鳥(空想上の鳥)也…………侒今世稱鵼者(侒(あん)ずるに、今、世に稱(い)う鵼(ぬえ)は)非拵鳥(空想上の鳥に非(あら)ず)…洛東及處處深山多有之 大如鳩(はと) 黄赤色黒彪(虎のような模様)以鴟(トヒ) 晝(ひる)伏夜出㖡(夜に鳴く)木杪 其觜上黒下黄 鳴則後竅(空也)應之 聲如曰休戯(ヒユウヒイ) 脚黄赤色也」(『和漢三才図会』:上記『和名類聚鈔』における「恠鳥(空想上の鳥)」は中国語「鵼(クウ)」の説明として言っているわけですが、ここでは「ぬえ」は空想上の鳥ではないのだ、と言っている)。

「二条院御在位の御時、鵺といふ化鳥(けてう)禁中に鳴いて、しばしば宸襟を悩まし奉る事ありけり」(『平家物語』)。

「聞、北野社ニ今夜有怪鳥、鳴声大竹ヲヒシクカ如、云々………其形、頭ハ猫、身ハ鶏也。尾ハ如蛇。眼光ニ光アリ。希代怪鳥也」(『看聞日記』)。