◎「にんにく(大蒜)」
「にインにキフ(似咽似吸)」。「咽(イン)」は咽(むせ)ぶこと。「吸(キフ)」は吸(す)うこと。咽(むせ)ぶような吸(す)うような、ということであるが、その揮発される気(キ)を吸うと息がつまり咽ぶ(むせ)ぶような香に惹かれ吸い込むような思いになるもの、の意。これは、とくにその鱗茎(球根)を食す食用植物の名であるが、その特徴的な強い刺激臭による名。広い意味ではネギの一種であり、古くは「おほびる(大蒜)」と言った。同じく広くはネギの一種であり、その鱗茎を食べる「ひる(蒜)」に似、はるかに大きいもの、ということ。ニンニク(大蒜)は貝原益軒の『大和本草』(1709年)には「蒜 大蒜小蒜アリ。大蒜ハ俗ニロクトウト云」(『大和本草』)とある。「ロクトウ」は「ロククトウ(六苦闘)」でしょう。「ロクク(六苦)」は仏教でいうところの「六道(ロクダウ):人間の魂がすすむ地獄道や餓鬼道から天上界までの六つの界」の苦(ク)。そこでの苦闘(クトウ)・六苦闘(ロククトウ)→忍辱(ニンニク)、ということ。「忍辱(ニンニク)」は、仏教用語であり、厳密には、菩薩(ボサツ)の修行の一をいいますが、ようするに、耐えしのぶこと。つまり、「ロクトウ」は、大蒜(おほびる)の別名ではなく、大蒜(にんにく)の別名だということ。ちなみに、野菜「にんにく」の語源を仏教用語「忍辱(ニンニク)」に求めることは後世でもそうとう一般的におこなわれますが、仏教では「不許葷酒入山門(葷酒(クンシュ)山門に入るを許さず)」と言われ、「葷(クン)」は「五葷(ゴクン:長葱、辣韭、大蒜、玉葱、韮)」と言われ、匂いの強い(精力を刺激昂進する)野菜は食を禁じられる状態であり、それを仏道修行・忍辱(ニンニク)たる食用野菜とすることは矛盾する(「私は食べたくないんです」と苦しそうに言いつつニンニクの強いギョーザを食ったりすることが修行ということか?)。
「草木 ………荵蓐 ニンニク 葫 同 蒜 同」(『節用集』(室町時代末期))。
「蒜 葫 於保比留」『新撰字鏡』。
◎「にれかみ」(動詞)
「にらゑかみ(韮餌噛み)」。韮(にら)のようにくたくたになった印象の餌を噛んでいるような印象であることの表現。牛が反芻している状態を表現する。「にげかみ」(その項)とも言う。
「…牛はなれて廳のうちへ入りて……にれうちかみて臥したりけり」(『徒然草』)。