◎「とんばう(蜻蛉)」
羽があり空を舞う昆虫の一種の名「とんぼ(蜻蛉)」に関しては、その昔「をめは(尾目、羽)→をむば」と言われたかもしれない。尾と目と羽根のもの、の意(ただし記録にはない)。一方、秋に空に無数に湧くように現れ舞うそれが「あきちふ(秋千生)」と言われ、これが「あきつ・あきづ」となり、「つ」が蜻蛉(とんぼ)一般(とりわけ、秋の赤トンボ)を言う語にもなり、「つをむば」とも言われ、これが「とんば」。その「とんば」が空一杯に群れ舞う様子が一方で「とんばウン(とんば雲)→とんばう」。他方で「とんばよ(とんば世)→とんぼ」。これらの語が「とんぼ」(「とんばう」(「とうばう」とも言う)になる。他方、空飛ぶ「や(矢)」のような印象のもの、として、「や」とも言われ。その子は「やご(蜻蛉子)」であり、「をめは(尾目、羽)→をむば」(上記)に「や」がつき「やをむば→やんま」になる(オニヤンマ、などのそれ)。
「蜻蜒 トンバウ 異名赤弁 セキベン」(『雑字類書』(室町中期頃):「赤弁 セキベン:赤い弁(ひら)」が異名ということは「とんばう」は赤トンボか)。
「蜒(とんばう)を とんぼ」(『かた言』1650年ころに、京都の言葉を正当なものとして方言や語形の崩れた語などを書いたもの)。
「蜘(くも)の巣に棒縛りなるとんぼ哉」(「俳諧」『俳諧新選』(1773年))。

◎「どんぶり(丼)」
「ドンぶり(貪振り)」。「ふり(振り)」は、何かを感じさせる物や動態のあり方(「男ぶり」「(酒の)飲みっぷり」)。「貪(ドン)」は「ドンヨク(貪欲)」の「ドン」であり、むさぼること、欲が深いことを意味する。(形状が)欲張った印象のもの、の意。これは食うための何かを盛り入れる器であり、大きい。さまざまな物を入れて持ち歩く大きめの袋をやはり「どんぶり」と言うことがある。命名意図は同じ。ちなみに「丼」の字は井戸の中に(大きめの)石を投げ入れた様子を描いている。そうすると「どんぶり」と音がするのでこれが「どんぶり」と読む字なのだそうです。江戸時代に誰かが思いついた和製漢字です。
「1781年(天明1)、旗本・布施胤致(狂名・山手白人(やまのてしろひと))が洲崎の料亭主・升屋宗助(ますやそうすけ)を自邸に招待したさいの献立書には、平鉢、大鉢などのほかに「南京染付どんぶり」の名が見えている」(『改訂新版 世界大百科事典』(平凡社))。

◎「どんより」
「ドンよりイン(曇より陰)」。「曇(ドン(呉音))」はくもっていること。「ドンよりイン(曇より陰)→どんより」は、その曇(ドン)より暗く明瞭さに乏しいこと。
「もう日暮れ近く空合はドンヨリと曇ってをりまする」(「落語」『真景累が淵』)。