◎「とゐ」(動詞)
「とおひ(と生ひ)」。「と」は助詞。「と」思った瞬間、見る間に、生ふ(発生する)こと。
「畝火山(うねびやま) 昼は雲とゐ 夕されば 風吹くかむとぞ 木の葉さやげる」(『古事記』歌謡22:これは危急の事態を知らせる歌)。
「…沖見れば とゐ波立ち 辺見れば 白波騒く…」(万220:「とゐなみ(とゐ波)」は、ふと突然たつ波)。

◎「とゑらひ」
「とをへあらひ(とを舳洗ひ)」。「とを」は「たわ(撓)」の母音変化。(波が)撓(たわ)み(舟の)舳先(へさき)を洗ふ情況になること。
「行(ゆ)こ先(さき)に波(なみ)なとゑらひ後方(しるへ:しりへ)には子をと妻をと置きてとも来(き)ぬ」(万4385:これは東国の防人の歌であり、方言的変化がある)。
◎「とをみ(撓み)」(動詞)
「たわみ(撓み)」の母音変化。→「たわみ(撓み)」の項。O音化により対象感・存在感が生じる→「おき(置き・措き)」の項。
「延ふ蔦(つた)の 別れにしより 沖つ波 とをむ眉引(まよび)き 大船(おほふね)の ゆくらゆくらに 面影に もとな見えつつ…」(万4220)。
◎「とをらふ」(動詞)
「とをゆらふ(とを揺らふ)」。「とを」は「たわ(撓)」の母音変化(その項)。「ゆらふ(揺らふ)」は「ゆれはふ(揺れ這ふ)」であり、揺れる情況にあること。(海の波により舟が)撓(たわ)み揺れる情況にあること。
「春の日の 霞(かす)める時に 住吉(すみのえ)の 岸に出で居て 釣舟の とをらふ(得乎良布)見れば…」(万1740)。