◎「とらかし(蕩かし)」(動詞)
「とらけ(蕩け)」の他動表現。「とらけ(蕩け)」の状態にすること。(たとえば金属を)とろけさせる、溶解させる、という意味でも用いられ、人の緊張(警戒心や、注意ある普段の心的状態)を失わせるという意味でも言う。
「以済群生 蕩(トラカシ)て雲霓而光日月」(『三蔵法師伝』:群生を済ひ雲霓を蕩(とらかし)て日月を光らす:「霓(ゲイ)」は『説文』に「陰気也」とされる字。虹を意味するが、鮮やかなものではなく、暗いものだそうです)。
「艷(えん)閉(とぢ)て僅(わづか)に見れば千態(ちぢのすがた)人の心を蕩(トラカ)して忽に…」(『太平記』)。

◎「とらけ(蕩け)」(動詞)
「とれあけ(取れ明け)」の動詞化。「とれ(取れ)」は「とり(取り)」の自発(「いつのまにかボタンがとれた」)。この場合の「とれ(取れ)」は、得ることではなく、離脱すること。「あけ(明け)」はこの場合は他動表現ではなく、自動表現(「夜があけ」)。意味は、開放感、空白感のある状態になること。「とれあけ(取れ明け)→とらけ」は、全体として一体構成していたあらゆる部分が遊離、離脱し、開放感、空白感のある状態になること。
「其母并(並)七子 口皆有血汚 殘骨并(並)餘髮 縱横(トラケ)て在地上」(『金光明最勝王経』平安初期点)。