「たえ(た枝)」。原形は「た」でしょう。この「た」は両手のひらを叩き合わせた際に発する音が口で再現された擬音です。肩から先がその「た」のある枝(え)であり、これが「たえ→て」。身体上部左右に肩からのびる身体部位です。

・身体部分

「梯立(はしたて)の 倉橋(くらはし)山を 嶮(さが)しみと 岩かきかねて 我が手(て:弖)取らすも」(『古事記』)。

「稲つけばかかる吾(あ)が手を今夜(こよひ)もか殿の若子(わくご)が取りて嘆かむ」(万3459:この歌は、そうとうに年配の女による冗談たる歌でしょう。この前にある3458は相当に露骨な性的描写のある歌)。

「『あな、若々し』と、うち笑ひたまひて、手をたたきたまへば、山びこのこたふる声、いとうとまし」(『源氏物語』)。

・作業

人間は手(て)でさまざまなことを行い、「て(手)」という語も、身体部分たるそれを意味するだけではなく、さまざまなことをするもの、のような意で用いられる。「さまざまな事業に手を広げる」。「まったく経験のない事業に手を出す」。「粗暴で手に負えない子」。「仕事が忙しく手が足りない」。「あいつとは手を切る」。「(ものやことを)手に入れる」。「手下(てした):なにごとかをするものの従属下にある者」。「手の内(うち):こととしてなにごとかをすることのその内容」。「おてごろな値段」。この「て(手)」に形容詞がつき。「手厚い看護」。「手ごわい相手」。「手短(てみじか)に話す」。逆に、機械などをもちいず、身体部分たるそれであることが強調されると。「手料理」。「手作り」。なにかが身近で日常的なものであることが表現されて。「手帳」。「手箱」。「手拭(てぬぐひ):この語は、手を拭(ぬぐ)ふもの、という意味ではない。携帯用の「拭ひ」」。

・方向

人間は手(て)で方向を指し示し、「て(手)」がものやことのあり方(社会的なあり方が方向だということ)を意味して用いられる。「山の手(山の方、その域)」。「その手の話に軽々しくのるわけにはいかない(そういう種類や傾向の話)」。「厚手(あつで)の紙」。ある動態のあり方の人→「話し手」「歌い手」。価値としてあるあり方のもの→「酒手(さかて):それにより酒を飲む金」。さまざまなことをおこなうその内容→「先手(せんて)を打つ」。「手加減する(相手や情況に応じて加減を考える)」。「手心(てごころ)を加える(ただ無機的にことをすすめるのではなく、人の心をもって応じる)」。社会的あり方→やりかた・方法→「その手があったか」。「手を変え品を変え(やり方を変え、もちいる物を変え)」。

・あるものが手で用いられるものである場合、そのものの、そのものを用いる場合に手である動作を行うための部分。「取っ手」「持ち手」「引手」。

・そのほか、「て(手)」という語を用いた慣用表現は非常に多い。