◎「たのみ(頼み)」(動詞)
「たにおみ(たに臆み)」。「た」は、「たやすい(た安い)」などの、呆(あき)れ果てているような状態であることを表現する「た」。それを受け入れることが自我の限度を超えているような状態であることを表現する「た」(9月5日)。「おみ(臆み)」は「おめ(臆め)」の他動表現(「Aにおめ」「Aをおみ」:(「おい(老い)」、「おぢ(懼ぢ)」などに現れる「お」による動詞)。何かの全的権威下動態になること。「たにおみ(たに臆み)→たのみ」は、自我の限度を超え、自我の力や影響の及ばない状態で、何かの全的権威下動態になること。たとえば、他者がなにごとかをすることを願い、それをその他者に伝えもし、なされたそのなにごとかの結果を受け入れる。伝えなくとも、他者に期待する。
「駿河(するが)の海(うみ)おし辺(べ)に生ふる浜つづら汝(いまし)を頼み(多能美)母に違(たが)ひぬ」(万3359:「おしべ」の「おし:於思」は、「いそ(磯)」の東国方言と言われますが、「おほいし(大石)」でしょう。この大石が頼りにしている「いまし(汝)」なわけです)。
「船に乘りては梶取の申ことをこそ高き山とたのめ、などかくたのもしげなく申ぞ」(『竹取物語』)。
「住吉の神を頼みはじめたてまつりて、この十八年になりはべりぬ」(『源氏物語』)。
「殿上に(三位の中将を)呼びにやり聞えて「かかることの侍るを、此方(こなた)に寄らせ給へと頼み聞ゆる」と聞えさすれば」(『是中納言物語』:この「たのむ」は、お願いする、のような意)。
「店に入って、ラーメンをたのむ」(この「たのむ」は一般に、注文する、と言われる)。
◎「たのめ(頼め)」(動詞)
「たのみ(頼み)」の他動表現。「たのみ(頼み)」の状態にさせること。信頼させ、あてにさせること。「おめ(臆め)」(Aにおめ)は自分がそうなる。「おみ(臆み)」(Aをおみ)は他者をそうする。他者をおめさせるのではない。他者を自分においてそうする。他者を自分がおめる状態にする。「たにおみ→たのみ」はまったく他者を自分においてそうする。これは他者に関する自動表現になる。他者を自分においてそうするその「たのみ」が他動表現になり「たのめ」になったとき、それは、他者を他者においてそうさせる使役型他動表現になり、他者において他者をそうさせ、信頼させ、あてにさせ、という意味になる。
「言(こと)のみを後も逢はむとねもころに我れをたのめて逢はざらむかも」(万740:期待させあてにさせて逢わない)。
「この御行く先の(将来の)頼めは、いでや(どうなのかしら…)、と思ひながらも、すこし耳とまりける」(『源氏物語』)。