◎「たぐり(手繰り)」(動詞)
「てわきくり(手湧き繰り)」。「てがわく(手が湧く)」とは手がつぎつぎと現れること。手が(左右交互に)次々と前へ出る。その状態で何かを(具体的には縄などを次々とつかみ)手前へ引く。「たぐりよせ(手繰り寄せ)」という表現もあるが、「たぐりより(手繰り寄り)」もある。
「縁 ……… タクリテ ツタフ …」(『類聚名義抄』)。
「(悪馬の)跳ね走りけるを、さし縄にすがりて、たぐり寄りて乗りてけり」(『古今著聞集』)。
◎「たぐり(嘔吐り)」(動詞)
「たきけいり(発生き気入り)」。「たき(発生き)」に関しては「たき・たけ」の項(9月28日)。身体が、何かが発生する「け(気)」に(その状態に)入る。何かが発生する気(け)とは、身体内に発作的に湧き上がる嘔吐感です。つまり、吐き気の状態に入り、ということなのですが、この語は胃の内容物を吐くこと、その吐かれたもの・嘔吐物、も意味する。また、「たぐり」は咳発作が沸き起こることも意味する。
「「穢(けがらは)しき哉(かな)、鄙(いや)しき矣(かな)。寧(いづくに)ぞ口(くち)より吐(たぐ)れる物(もの)を以(も)て敢(あ)へて我(われ)に養(あ)ふべけむ」」(『日本書紀』)。
「お尋(たづ)ねなくともいひたうていひたうて胸のたぐる折しも。さらばお咄(はな)し申しませう」(「浄瑠璃」『嫗山姥(こもちやまうば)』)。