◎「たぐひ(偶ひ・類ひ)」(動詞)

「たがひいえゆひ(違ひ癒え結ひ)」。「たぐぇゆひ」のような音(オン)を経つつ「たぐひ」になった。「たがひ(違ひ)」まったく分かれた(分けられた)情況に、全く別のものやことに、なっていること。「いえ(癒え)」は安らかに緩和した安堵を得ること。抵抗とそれによる緊張はなくなり融和する。「ゆひ(結ひ)」は、この場合は、一体化させること。たとえば、AがBに、あるいはBと、たぐひ、と言った場合、Aは(違(たが)ひが癒(い)えた状態で)自己を結ひ、という表現になり、自動表現として現れる。意味は、融和、同一化し、のような意味になる。「たぐひて~」が、伴い、や、ともに~、のような意味になる。たとえば「たぐひて行き」は、融和・同一化して行き、ともに、連れだって行き。また、ことがたぐへば、ことが融和・同一化する、合う、それと同一、といった意味になる。たとえば「あの方ほどの方の聟選びにはかの方こそたぐひ」は、その方こそ合う。「あの大将の戦いぶりは前大将にたぐふ」は、前の大将に匹敵し、それと同一。

「いかづちのひかりのごときこれのみはしにのおほきみつねにたぐへり おづべからずや(雷の光の如き此れの身は死にの大君常にたぐへり 畏(お)づべからずや)」(『仏足石歌』)。

「言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて(副而)行かましものを」(万1515)。

「君達の上なき御選びには、まして、いかばかりの人かはたぐひたまはむ」(『源氏物語』:この「たぐひ」は「たらひ(足らひ)」とするものもある。満足する人がどれほどいるだろう、と、違和感なく融和し同化する人がどれほどいるだろう、の表現の違いのようなものであるが、「たぐひ」の方が表現は品がいい)。

「また、たぐひおはせぬをだに、さうざうしく(孤独な寂寥感が感じられると)思(おぼ)しつるに…」(『源氏物語』:この「たぐひ」は血縁家族を言っている。配偶者というか、融和し一体化している男と女の一方を他方殿関係で「たぐひ」と言ったりもする)。

「たぐひ希(まれ)なる」(同化するものやことがほとんどない。ほかにほとんどない)。

「そういうたぐひの話は今までに何度も聞いたことがある」。

 

◎「たぐへ(偶へ・類へ)」(動詞)

「たぐひ(偶ひ)」の他動表現。何か(A)を何か(B)に融和・同一化させ、ということ。

「花のかを風のたよりにたぐへてぞ鶯さそふしるべにはやる」(『古今和歌集』:花の香を風に添える、のようにも読めるわけですが、言っていることは、融和させ同化させる)。

「おもへども身をしわけねば目に見えぬ心を君にたぐへてぞやる」(『古今和歌集』)。

「娯(うれ)しさ比(たぐ)へんやうもなく扶(たすけ)出(いだ)しまゐらするに…」(『椿節弓張月』:たとえようもなく、に意味は似ているわけですが、そのうれしさは他のことに同一化させることはできず、ということ)。