◎「た」(1)

T音の思念性(※)とA音の全感、それゆえの情況感により発生感を表現する「た」。T音の動態の思念的確認性が情況化し情況における動態発生感が生じるということです。「(霰(あられ))たばしる(た走る)」(接頭語に現れるのはこれだけのようです)。動詞「たち(立ち)」の語幹の「た」もこれ。その他、この「た」を語幹とした活用語尾K音の終止形二音動詞もある(「たき・たけ(動)」の項)。

※ 「思念性」とは想念的作用性です。T音の思念性にかんしては母音A音よりもO音やU音の方がわかりやすいか。対象感・目標感のあるO音による「と」では、たとえば「AとB」と言った場合、「と」によるAの想念化・思念化が起こりBが言われA・Bの存在の同動が起こる。動感のあるU音(U音の動感→「いく(幾)」の項)による「つ」では、たとえば「行きつ戻りつ」と言った場合、「つ」による動態の想念化・思念化が起こり動態の同動が起こる。T音により、ある内容の思念が、想が、起こり作用する。なぜ人は内的にそうしたことが起こるのかに関しては、それが知的生命体たる人の本能ということで。T音にはそうした思念性がある。

 

「た」(2)の語源

「たは(呆)」の「は」が無音化している。「たは(呆)」に関してはその項参照。呆(あき)れ果てているような状態であることを表現する。自分が経験したことがあまりにも限度を超えているのです。「たやすし(た安し)」、「たとほし・たとほみ(た遠し・た遠み)」、「たもとほり(た廻り)」。「たはやすし(たは安し)」という形容詞も現れている。この「たは(呆)」は「たはけ(戯け)」という動詞や「たはごと(狂言・戯言)」という言葉にもなっている。

「たはやすくみるまじき物を。夜はやすきいもねず。闇の夜にもこゝかしこよりのぞきかいまみまどひあへり」(『竹取物語』)。