◎「そり(剃り)」(動詞)
「それ(外れ)」の他動表現。「はれ(晴れ)」「はり(墾り)」・「それ(外れ)」「そり(剃り)」のような関係。そうした「そり(剃り)」は「そらす」「わきへよける」のような意。この「そり(剃り)」という動詞は、その昔、人が出家する際の剃髪を表現した。髪や髭(ひげ)を脇へ避(よ)ける、というような表現をしたわけです。これが、そうしたことをすることを一般的に表現するようになった。後世では「髭(ひげ)を剃る」と日常的に表現しますが、この動詞は後世でも体毛を根元から切り離すことにしか用いられていないでしょう。
「然(サテ)朕(アレ)ハ髪(カミ)ヲソリ(曾利)テ仏(ホトケ)ノ御袈裟(ミケサ)ヲ服(キ)テ在(アレ)ドモ…」(『続日本紀』宣命)。
「…重くわづらひはべりしが、頭剃り忌むこと受けなどして…」(『源氏物語』:「忌むこと受け」は受戒したこと)。
◎「そり(隆り)」(動詞)
「しほり(為惚り)」。語頭の「し(為)」は動態が意思的・故意的、意思自発的であることを表現する。「ほり(惚り)」は「ほれ(惚れ)」に対する他動表現の関係にある。「ほれ(惚れ)」に関しては「そら(空)」の項(8月28日)で触れている。それは夢想的・空想的世界(前頭葉的・未来的と言ってもいい)にあることを表現する。その世界にあることが意思自発的にあることが「そり(隆り)」。この動詞は『古事記』において「うきじまりそり(蘇理)たたして」と「天孫降臨」を表現している。この「そりたち(そり立ち)」は、夢の世界に、そして前頭葉的未来世界に、意思自発的に立ち天孫は降臨している。ただ、この「そり(隆り)」が俗物に現れた場合、「偃蹇(そりあか(が)り)慠慢(おこ(ご))らむこと、当(まさ)に知れ」(『大智度論』) (平安時代の表現)という状態になる。ちなみに、上記『古事記』「天孫降臨」にある「そり」は「(胸を)反(そ)り」ではない。その場合の「そ」は上代特殊仮名遣いにおける乙類ですが、「そり(隆り)」の「そ」は甲類。