「すてキ(捨て気)」。「すてみ(捨て身)」は、身(み:体・自己)が遊離し影響しないこと、すなわち、自分への配慮がなくなること、であり、「すてキ(捨て気)」は、気(キ)が遊離し影響しないこと、ですが、では、なにへの、どういうことへの、配慮がなくなるのか。「気(キ)」は米を炊く際に環境に現れる煙状のものその他が言われますが、人(A)がなんらかの活動力を現した場合、それにより、その人から発せられる影響作用が感じられ、その実体が「気(キ)」と表現されたりもする(→「氣蓋世(キガイセ:気、世を蓋(おほ)ふ)」(『史記』)、「雰囲気(フンイキ)」)。その作用には特定のあり方、指向、意向、つもり、があり(→「どういう気?」「気まま」)。そうした、指向、意向、つもり、たる「気(キ)」が遊離し影響せずそれへの配慮がなくなることが「すてキ(捨て気)」。こうする、こうなる、という理性的コントロールが働いていない。世の人すべてをそうさせている、世をそうし世がそうなっている、コントロールも働いていない。これは人や世がそれによっている法が滅している状態でもあり、「すてき」と「滅法(メッポフ:不条理に、理性がなりたたず程度がはなはだしい)」は意味が似ることになる。
「『…おたァ(おらが)お袋、おでへ(おれへ・おれを)、おでへ(おれへ・おれを)可愛(かい)がる。滅法(めつぽ)だ滅法(めつぽ)だ。すて、すて、すてきに可愛(かい)がるから能(い)い』」(「滑稽本」『浮世風呂』:これは、原本で「よいよい」と表現されている、知能や身体に障害のある子が言っていることであり、言っていることには意味のよくわからない部分もある。これは式亭三馬の創作ではなく、実体験でしょう。創作でこの表現は無理と思われます)。
「『(真冬の最中、雪や氷で鯉がとれなくても)壹歩(いちぶ)出しやア、素敵なやつが買へらァな』」(「滑稽本」『浮世床』:取ろうと思っていた者が予想もできなかった良い鯉)。
「(人相書を見て)四人『素的(すてき)に好(い)い男(をとこ)だなァ』」
ト思ひ入れ
硨𫐀(シャコ)『所が聞きやれ。……それに描いたは、まだ手疵を受けざる前の面ざしゆゑ、その面體へ夥しく、刀疵のあるやつが、即ち切られ與三(よさ)サ』」(「歌舞伎」『與話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)』(1853年初演):一般の期待予想を超越したいい男)。
「久次『素的な事をやつたなァ』」(「歌舞伎」『與話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)』:この「素的な事」は島破り。後世的に言えば、脱獄)。
「忠太『…お名の高いお大名の若殿様が、初湯賽日の御祝儀をお貰ひなされずば、これまでの御辛抱も水の泡でござります』
朝日『これ、水の泡より、水虫で素的に困るの』」(「歌舞伎」『後国入曽我中村』:非常に困る)。
「飴は味(あぢは)ひいと美(めでた)き一種(ひとつ)の食物(たべもの)に外(ほか)ならねど用(もち)ひやうにて孝行息子が親を養ふ良薬(くすり)にもなり盗跖(おほどろぼう)が窃盗(やじりきり)のすてきな材料(ざいれう)にもにもなりしと聞く」(『当世書生気質』(明治19(1886)年):「やじりきり」は土蔵の壁を破ったりする泥棒ですが、飴は土蔵破りの好都合な道具になるということか)。
「SUTEKI(ステキ)-NI(ニ), …Exceedingl(極めて), very(非常に), ―samui(寒い), very cold(非常に寒い). Syn. HANAHADA(甚だ), GŌGI-Ni(豪儀に)」(『和英語林集成』)。
「愛子は、ふむ、これは又素的な美人ぢゃないか」(『或る女』(有島武郎)・大正8(1919)年) 。
「『すてきな奥さん』」(雑誌名・主婦と生活社(1990年創刊)) 。