◎「すごし(凄し)」(形ク)
「すけこし(酸気濃し)」。「す」は酸系の刺激による生理反応のような反応を表現する擬態。酸性食用液体「す(酢)」という語になっているそれ(→「す(酢)」の項・2023年2月22日)。「すけこし(酸気濃し)→すごし」は、その「す(酸)」の「け(気)」が濃(こ)い。そうした気(け)を受けた生理反応があることを表現する。ぞっとする、寒気を感じる、のような形容表現。冷ややかな印象や荒れた印象などを表現しますが、後世では、感銘的な驚きが感じられたり衝撃を受けた場合にすべて「すごい」「スゲェ」と言うようになる。
「いよいよあやしうひなびたる限りにて、見ならはぬ心地ぞする。いとど、憂(うれ)ふなりつる雪、かきたれ、いみじう降りけり。空の気色はげしう、風吹き荒れて、大殿油消えにけるを、ともしつくる人もなし。かの、もの(物の怪)に襲はれし折思し出でられて、荒れたるさまは劣らざめるを、ほどの狭う(ここはそれほど広いところではなく)、人気(ひとけ)のすこしあるなどに慰めたれど、すごう(すごく)、うたて、寝(い)ざとき(熟睡できない)心地する夜のさまなり」(『源氏物語』)。
「月は隈なくさし出でて、(世界が)ひとつ色に見え渡されたるに、しをれたる前栽の蔭心苦しう、遣水(やりみづ)もいといたうむせびて(むせぶように流れ)、池の氷もえもいはずすごきに…」(『源氏物語』)。
「いづるは意気な若衆髷(まげ)、湯あがりすごき桜色…」(「人情本」『春色児誉美』:これはただ思いに滲(し)むような感銘的驚きを表現している)。
「爆発してものすごい音がした」。
◎「すごすご」
「すむがコ(清むが孤)」。「が」は逆接の接続助詞。「孤(コ)」は一人であること。「すむがコ(清むが孤)→すご」は、雑物・雑事がなく透明感(あるいは、空虚感)があるが、誰かがともにあるという印象がなく、一人であること。この「すご」が二度重なることにより「すごすご」はその「すご」の持続的状態にあることが表現される。
「行て見れば江声すごすごとして峯も高くそびえ…」(『古文真宝後集抄』:「江声」は川の水音)。
「維行(これゆき)力及ばずしてただ一騎すごすごとぞ控へたる」(『保元物語』:「維行(これゆき)」は平清盛の家人であった人物であり、「保元の乱」(1156年)において源為朝(鎮西八郎)と戦って死ぬ。上記は、退くな! と周囲に訴えたが、力及ばず、一人のこされた…、という場面。そして、戦いをいどみ、死ぬ。『保元物語』にはさまざまなものがあるのですが、これは『新編日本古典文学全集 41』(小学館)にあるもの。「保元の乱」(1156年) 、「平治の乱」(1160年)を経、「平安時代」は終わる)。
「さても其方(そのほう)はいつ来て見るにも、たゞひとりすごすごとして、友なひあそぶ人もなし。さびしき事はなきか」(「仮名草子」『可笑記』)。
「此男、怪顚(けでん:非常に驚く)して逃げんとするを、とらへて、ずんと(鼻を)削(そ)ひでかの女にとらせて、『この上はたがひのうらみもあるまじきか』とて、追立てられ、すごすごと歸りけるが…」(『昨日は今日の物語』:この「すごすご」は、孤独な寂寥からさらに心情的に発展し、うちひしがれたような寂寥感を感じている。この話は多少、事情が複雑であり、ある男が病により死を悟り、ある女に、女房になってくれ、死後、財宝はすべてお前に任せたい、と言い、女は承知し、髪を削いで後生を守る、というと、男は、髪はまた生えるものだから鼻も削いでくれ、というと、女は承知し、鼻を削いだ。ところが男は病気が治ってしまい、女に、お前は隠居してくれ、と言い出す。それに怒り女はお上に訴え出、男はつかまり、鼻を削がれ、そしてすごすごと帰って行った…)。