「しりゆあらむをへ(知り揺有らむを経)」。「しららんべ」のような音を経、「しらべ」になった。「ゆ(揺)」は「ゆ(揺り)」にあるそれであり、揺(ゆ)れることですが、何が揺れるのかといえば、それは細い糸であり、琴の絃(ゲン)です。それは揺れることにより音を発し、どのような糸がどのように揺れるかにより音は変わる。「しりゆあらむ(知り揺有らむ)」は、知っている揺(ゆ)、経験的し記憶にある音(おと)を発する揺(ゆ)が「あり」という状態になろうとしたり、それを思い働きかけたりすること。「あらむ(有らむ)」の「む」は意思にもなり、推量にもなる。「を」は状態を表現し、この「を」はつづく「へ(経)」という動態が「しりゆあらむ(知り揺有らむ)」という状態であることを表現する。「へ(経)」は動態が経過すること。
上記「あらむ(有らむ)」の「む」が意思である場合。「しりゆあらむをへ(知り揺有らむを経)→しらべ」は、「ゆ(揺)」が「しりゆ(知り揺)」であろうと努力することを意味し、音を発する糸の質を変えたり、長さを変えたり、その緊張の度合いをいろいろと変えてみたりする。後世で言えば(この場合は琴の)調律です。その「しらべ」が精妙に、音として美しく、完成的になされそれにより音(おと)が発せられた場合、その音(おと)、特にその連続的な音(おと)、も「しらべ」といい、「しらべ」は音楽に対する、完成的な美しさや感銘力を帯びたそれを美称的に形容した語になる。
上記「あらむ(有らむ)」の「む」が推量である場合。「しりゆあらむをへ(知り揺有らむを経)→しらべ」は、「しりゆ(知り揺)」があるであろうと(ということは不信が起こっている)それを想いこれを確認すること、糸やそれに影響を与えるその周辺のものやことを見、情報を収集し、確認することを意味する。この行為は、琴や鼓(つづみ)その他の楽器に限らず、意味発展的にあらゆるものやことに関し言われ、「しらべ(調べ)」は、ものやことに不知による不安や不信がある場合そのものやことにかんし情報を収集し、確認することを意味する。江戸時代の俗語的な表現で、確認する、という意味で、何かを食べたり遊女を経験することを「しらべ」と言ったりもした。
「おのおのとりてかき鳴らし心み給ひて、『つまおぼえてしらべられたる御琴どもかな。人のえせぬはや』とのたまひて」(『宇津保物語』:絃の音調が見事に整えられている)。
「藝はこれつたなけれども、人のみゝ(耳)をよろこばしめむとにはあらず。ひとりしらべ、ひとり詠じて、みづから情(こころ)をやしなふばかりなり」(『方丈記』:(ひとりで)楽器を演奏している)。
「わづかに聞きえたることをば、我もとより知りたることのやうに、こと人にも語りしらぶるもいとにくし」(『枕草子』:この「しらぶる」は「しらべ、いふ(調べ、言ふ)」になっている本もある。だとすると、調べを奏でるよう語った、ということか)。
「Xirabe(シラベ), uru(ブル), eta(ベタ). I,xirame(シラメ), uru(ムル). Tempe rar instrumentos de cordas,ou outro qualquer instrument,como tabaquinho(Cavaquinho?),&c(弦楽器、またはタバキーニョ(カヴァキーニョ?)などの他の楽器の調律). Vt, Biua,I,tçuzzumiuo xiraburu(ビワ または? ツヅミヲ シラブル). Temperar a viora,ou tabaquinho(Cavaquinho?)(ビオラまたはタバキーニョ(カヴァキーニョ?)を調律する)」(『日葡辞書』)。
「譬(たとへ)ば出掛けて衣服をしらぶるに、袴のくくり緒なし…」(『政談』:見、確認している) 。
「SHIRABE(シラベ),-ru(ル),―ta(タ), シラベル, 調, t. v. To examine(調査・検査すること), investigate(調査・検査・取り調べ・研究をすること), inquire into(調査・取り調べをすること), to judge(判定・鑑定すること) ; to tune(調律すること。音を同調させること), to play on a musical instrument(楽器を演奏すること). Tsumi wo(ツミヲ) -, to judge a crime(罪を判定・判断する). Syn(類義語). SENSAKU SURU(詮索する), TADASU(糺す), GIMMI SURU(吟味する)」(『和英語林集成』)。