◎「しば(屢)」

「しめま(占め間)」。占(し)めた間(ま)で、間(ま)を占(し)め。間無く。間が開かずずっと。「しめ(占め)」に関してはその項。二語重なり表現が強調されれば「しばしば(屢)」。

「…山傍(やまび)には 桜花散り 貌鳥(かほとり(可保等利):カッコウ(郭公)か)の 間(ま)なくしば(之婆)鳴く…」(万3973:「しば鳴く」という表現は多い)。

「あからひく色ぐはし子をしば(数)見れば人妻ゆゑに我れ恋ひぬべし」(万1999:「人妻ゆゑに」は、人妻でありながら、の意→「ゆゑ(故)」の項)。

「堀江漕ぐ伊豆手の舟の楫(かぢ)つくめ音しば立ちぬ水脈(みを)早みかも」(万4460:「伊豆手(いづて)の舟」は、伊豆様式の舟、のような意)。

「かたをかにしはうつりしてなくききすたつはおととてたかからぬかは(片丘に屢移りして鳴く雉立つ羽音とて高からぬかは)」(『山家集』)。

「草枕旅にしばしば(之婆之婆)かくのみや君を遣りつつ我が恋ひ居らむ」(万3936:旅立つあなたをいつもこんなふうに送り出してあなたを恋ふていなければならないのでしょうか。ようするに、一緒に行きたいということです)。

 

◎「しば(暫)」

「しばし(暫し)」「しばらく(暫く)」をその語頭二音で表現したもの。「しばし(暫し)」「しばらく(暫く)」に関してはそれらの項(「しばし(暫し)」は「しまし(暫し)」の、「しばらく(暫く)」は「しまらく(暫く)」の、濁音化)。「しば(暫)」の原意は、ほんの少しの間(ま)、ということですが、「しば待て」が、ほんの少しの間(ま)待て→少し待ってくれ、という意味になる。「しばさせ給(たま)へ」の「させ」は使役であり、少しの間(ま)をさせろ→少し余裕をくれ→少しまってくれ、ということでしょう。

「しばさせ給へとても(迚)さらば。暮るゝを待ちて月の夜声に。唄(うた)ひ給はゞわれも又。真(まこと)の姿を影(あらは)すべし」(「謡曲」『山姥』:「とても(迚)」は、といっても、のような意。「迚」は中途で行きつ戻りつすることをあらわす和製漢字)。