「しひつつふか(廃ひつつ深)」。「しひつつ(廃ひつつ)」は機能不全が連動すること(→「しづ(沈静)」・10月30日)。「ふか(深)」はク活用形容詞「ふかし(深し)」の語幹ですが、経過があり、その経過の限界に明瞭性がないことを表現する→「ふかし(深し)」の項。すなわち、「しひつつふか(廃ひつつ深)→しづか」は、機能不全が連動しその経過の限界に明瞭性がないこと。機能の不全はある主体の個別的・具体的な動態に関してであることもあり(「彼はしづかに歩いていった」)、一般的な動態、生活のあり方、とでもいうようなことであることもあり(「村でしづかな生活をおくった」)、環境や社会全体であることもある(「この数年、争乱もなく、世の中はしづかだ」)。また、動態の不活性化した機能不全は音を発することも減少したりなくなったりし、「しづか」は音響刺激の乏しいことやないことも表現する。また、それは動態の時間的な不活性化も表現し、ある動態が通常の期待よりも長い時間をかけて現れることや、出現し現実化するまでに長い時間がかかることも、すなわち「ゆっくり」も、表現する。
「是(ここ)に、男大迹天皇(をほどのすめらみこと)、晏然(しづか)に自若(つねのごとく)して、胡床(あぐら)に踞坐(ましま)す」(『日本書紀』:なんの動揺もなくふだんのまま落ちついていた、ということ。「胡床(あぐら)」は脚のついた座。床の上に直接に足を組んで座っているわけではない)。
「(素戔嗚尊(すさのをのみこと)は)是(ここ)を以(も)て、幽宮(かくりみや)を淡路(あはぢ)の洲(くに)に構(つく)りて、寂然(しづか)に長(なが)く隱(かく)れましき」(『日本書紀』)。
「此(この)二三年は洛中殊更しづかにして、甲冑をよろひ、弓箭を帯する者もなかりしかば…」(『平治物語』)。
「聲(こゑ)のありさま、聞(きこ)ゆべう(べく)だにあらぬほどにいと静かなり」(『枕草子』)。
「関白の東宮の事はしづかにといへば、のちにこそはとおほせられけるを、(能信が)けふ立たせ給はずは、かなふまじきことに侍りと申したまひければ、さらばけふとてなん東宮は立たせ給ひける」(『今鏡』:(関白の東宮の事は)急ぐこともなく、ゆっくりと、の意。「蓋(ふた)をしづかに開ける」が、物音せぬように開ける、も、速度的に遅い動態で、ゆっくり開ける、も意味する)。