◎「しころ(錣)」

「しきほろ(しき母衣)」。「しき」は、「なんのこれしき」などの「しき」(→「しき」の項・9月18日)であり、引いて低くあるものを意味する(→「しき」の項)。「ほろ(母衣・幌)」(その項)は矢を防ぐ覆いのような垂れ幕のようなもの(兜(かぶと)や鎧の(よろひ)の背部に垂らすように装着される)。「しきほろ(しき母衣)→しころ」、すなわち、引いて低くある「ほろ(母衣・幌)」(矢を防ぐ防御具)とは、矢など恐れず小さく作った防御具、と、兜に装着しより効率的に首のあたりを防御するために作られたそれを、矢が怖いからそうしたのではなく、矢や敵を恐れないからそうした、と強気な表現をしたもの。「しころ(錣)」は兜の背部や側部に鉢(頭部)から垂れるように装着される。

砧(きぬた)を打つ槌(つち)も「しころ」と言いますが、これは「しこりを(凝り男)」か。「を(男)」は男性性器。凝(しこ)った、一部が肉腫のように固まり膨らんだ、男性性器、の意。太鼓で言えば、腹の部分ではなく、打面の部分に握りがついている形態の槌(つち)。

 

◎「しさり(退り)」(動詞)

「しゐさり(為居去り)」。「しざり」とも言う。語頭の「し(為)」は意思的・故意的であることを表現する。「さり(去り)」は動くことでありいなくなることですが、「しゐさり(為居去り)」、すなわち、居(ゐ)るまま居なくなるとはどういうことかというと、そのままの状態で後退する。後ろを向き逆方向へ前進するのではなく、前を向いたまま後退する、退く。

「蔵人(くらんど)うしろなるぬりごめ(塗籠)の内へしざりいらんとし給へば…」(『平家物語』)。