◎「しこぢ(讒ぢ)」(動詞)

「しけうちいひ(蕪打ち言ひ)」。「けう」が「こ」に、すなわち、E音U音の連音がO音に、なっている。「しけ(蕪):無機能け」はその項参照(9月24日)。機能不全であること。「うち(打ち)」はなにごとかを現すこと→「うち(打ち)」の項(2020年5月28日)。「しけうちいひ(蕪打ち言ひ)→しこぢ」すなわち、(言語として)機能不全なこと、無意味・無価値なことを表し言う、とは、事実ではないことを言い人を貶(おとし)めたりすることです。この動詞は上二段活用。

「一切の人衆(ジンシュウ)は皆善心無くして……互ひに相(あ)ひ讒(しこぢ)諂(へつら)ひつつ枉(ま)げて…」(『金光明最勝王経』)。

「譖(シン)……毀(キ)也 讒(ザン)也 志己豆」(『新撰字鏡』)。

「兄(このかみ)豊成朝臣(とよなりのあそみ)を詐(いつはり)て讒(しこ)ぢ奏(まをし)賜(たまへ)るに依(より)て位を退(しぞけ)たまひて是(こ)の年(とし)の年(とし)ごろ在(あり)つ。然(しかるに)今(いま)は…」(『続日本紀宣命』)。

 

◎「しこなめ」(動詞)

「しかほなめ(為顔侮め)」。「なめ(侮め)」は、配慮や慎重さの欠落したいい加減な姿勢で向き合うこと(→「なめ(侮め)」の項)。「しかほなめ(為顔侮め)→しこなめ」は、(困難なことに対し)まるでもう自分がそれを克服したかのような顔で(たとえば、勝利することが困難な相手に対しまるでもう自分が勝利したかのような態度で。相手を見下し馬鹿にして)慎重さの欠落したいい加減な態度で対応すること。

「来る人を熊坂(くまさか)露としこなめて」(「俳諧」『正風集』:熊坂長範(くまさかちょうはん)は平安末期の、伝説上というか、物語上の盗賊。ここで言う「来る人」とは旅人であり、源義経。熊坂長範はこれを露(つゆ:はかないもの)とみて、なめてかかり、自分が露と消える(多少異なった筋書きの物語もある))。