「ぬしし(ぬ獣)」。「しし(獣)」は四つ足系統の動物(特に猪や鹿)を意味する。「ぬ」は否定・打ち消しの助動詞。「~ぬしし(~ぬ獣)」は、拒否・否定状態にある獣(しし)、ということですが、動物的純粋さ絶対さで無い・しないことを表現する。けしてない、けしてしない、の意。「櫛(くし)も見じ、家中(やなか)も掃(は)かじ」(万4263:櫛も見ない(おしゃれなんかしない)、家の中も掃かない(人目を気にして家をきれいにするようなこともしない))。けしてしない、と表現することが禁止として伝わることもある。「『え、出でおはせじ、とどまり給へ』と言ふ」(『宇治拾遺物語』:「けしてお出になってはいけない、ここにいなさい」と言った)。この表現、つまりこの語、は文法的に「助動詞」と言われていますが、活用変化は無い。
「沖つ鳥かもどく島(しま)に我がゐ寝(ね)し妹は忘れじ世のことごとに」(『古事記』歌謡9:「かもどく島(しま)」は神の世と思われる島→「かもどくしま・かもづくしま」の項。「ゐね」に関しては「ゐね(結寝)」の項(この語は「率寝(ゐね):女を連れて行って寝」という意味ではない))。
「稚(わか)ければ道行き知らじ幣(まひ)はせむ黄泉(したへ)の使(つかひ)負ひて通らせ」(万905)。
「あをによし奈良にある妹が高高(たかたか)に待つらむ心しかにはあらじか」(万4107:「しかにはあらじか」→(その妹の心は)然(しか)には有(あ)らぬ獣(しし)か→(その妹の心は)しかとではけしてないとか?(その妹の心は)たしかなものではないとでもいうのか?。終助詞の「か」は、「心無き雨にもあるか」のように、連体形につくので、この「じ」は助動詞「じ」の連体形だと言われている)。