「あかし(赤し)」「うつくし(美し)」その他、形容詞の語尾になっている「し」です。この「し」は、S音の動感とI音の進行感によりことの進行、その記憶再起・想起を生じさせる。たとえば「うし(憂し)」と「あし(悪し)」の場合、「う」も「あ」も、基本的にはどちらも虚無・虚(むな)しさを表現するのですが、「う」の場合は表現が客観的であり(※下記)、「うし」は、客観的にそういう憶再起・想起が生じている、という表現であり、「あ」の場合は虚無であることの虚しさが表現される情感発動たる発声のような「あ」であり、「あし」は、私はそうなっている、という表現なのです。それにより、そういうものごとだ、と、ものごとが表現される場合、「あし」の場合、私はそうなっているものごとだ、という表現がなされ、それが動詞「き(来)」のような「き」で確認され、「あしきこと」となり、「うし」の場合、客観的に認められる「う」が為(し)・来(き)、という表現はなんの意味もない不用な言語表現であり、それは「うきこと」と言えばそれは表現される。動態がそういうものであることが表現される場合は「う」の場合は「うくある」、「あ」の場合は「あしくある」。前者「う」の場合がク活用、後者「あ」の場合が、シク活用。つまり、ク活用形容詞の場合は、客観的にそういうことが生じている、という表現であり、シク活用形容詞は、私はそうなっている、という表現なのです。

※ U音の遊離感に関しては「いく(幾)」の項。

※ シク活用形容詞の語幹の二重性に関しては「ほし(欲し)」の項。シク活用形容詞の語幹の二重性、とは、たとえば語幹「かる(軽)」の場合、ク活用形容詞は「かるし(軽し)」ですが、シク活用形容詞では「かるがるし(軽々し)」と二音重なること。

 

・語幹一音の形容詞

(シク活用)

「あし(悪し)」、「いし」、「くし(奇し)」、「けし(異し)」、「はし(愛し)」、「ほし(欲し)」、「をし(惜し・愛し)」。

(ク活用)

「うし(憂し)」、「えし(良し)」、「こし(濃し)」、「さし(狭し)」、「すし(酸し)」、「せし(狭し)」、「とし(利し・疾し)」、「なし(無し)」、「よし(良し)」。

 

「し」の語源、が続きましたが、その項目だけ再記すれば、「し(其)」、「し(風)」、「し(死)」、「し(為)」、「し(助動詞・過去回想)」、「し(助動詞・尊敬)」、「し(助詞・副助詞)」、「し(助詞・接続助詞)」、「し(形容詞語尾)」。そのほか、「いし(石)」の「い」が退化している「し」(「おひし」(『古事記』歌謡14)→「おほいし(大石)」、「さざれし」(万3400)→「さざれいし」)もあり、動物などを追い払う掛け声のような「し」もある。掛け声のようなこれは「いし(石)」(言語表現として石をぶつけているということ)。『待っていておくれやし』などの語尾につく「し」もある。これは「し(為)」であり、動態を呼びかけすすめる。