「ふし(節)」。表現の中で「ふ」は消えた。「それは思いあたるふしがある」などと言う場合の「ふし」です。特異的になにごとかが感づかれること、思われることを表現する。「馬鹿ぢゃあるまいし」(→「まい」の項)、「ああ言へばかう言ふし」、「行けば酒も飲むし、金もかからう」等の文末にある「し」。「ふし」は「おりふし(折節)」のように、時空の印象点も意味する。すなわち、上記の「酒も飲むし」は、そうした印象点たる時空にあることも表現する。この表現が、この「し」による、「雨は降るし風は強いし」といった並列的表現を生じさせ、やがて、それは単に「し」の動感により、記憶再起的効果を一般的に生じさせるだけの用いられ方をされるようになる。「美人だし、頭はいいし、人柄はいいし、財産だってある」。
「酒は飲むし」などの場合は動詞連体形についているわけですが、「色は白いし」などのように、形容詞連体形にもつく、上記「~あるまいし」の場合は、「~まい」の原形を考えれば形容詞連体形についているということ。
この「し」は文法的には「接続助詞」と言われる。
「御世に御出なされたらば、己もじゃじゃ馬に乗らうし、其時は其方も…」(「歌舞伎」:「乗らうし」は、原形で言えば、乗らむふし(乗るだろうことが思われ…)、ということ)。
「娘はそれそれにかたづくシ、もう孫も五六人ある」(「滑稽本」)。
「無理やり引ぱられるし、酒には寄ってるし…」(『当世書生気質』)。