◎「し(其)」
S音の動感、その記憶再起性、I音の進行感、その記憶再起進行により「し」が何かを指し示す。人であれものであれ、何かを指し示す。ただし、ものごとは指し示さないようです。A音(「さ」)やO音(「そ」)のような情況性・客観性がないのでしょう。
「…老人(おいびと)も女童子(をみなわらは)もし(之)が願う心足らひに…」(万4094:この「し」は、人々一人一人)。
「…さきくさの 中にを寝むと 愛(うつく)しく し(志)が語らへば…」(万904:この「し」は、お前、のような意味なのですが、亡くなった子)。
「鮪(しび)突く海人(あま)よ し(斯)が離(あ)ればうら恋(こほ)しけむ」(『古事記』歌謡110:この「し」は、それ、のような意であり、鮪(しび))。
「斎(ゆ)つ真椿(まつばき)しが花の」(『古事記』歌謡58:それ。椿)。
「鵜川立ち取らさむ鮎のしが鰭(はた)は…」(万4191:それ。鮎)。
◎「し(風)」
音(おと)に由来する擬態。風(かぜ)を意味する。
「あらし(荒風・嵐)」。「しまき(風巻:つむじ風)」。