◎「さわぎ(騒ぎ)」(動詞)

「せあわぎ(瀬泡ぎ)」。「せあわ→さわ」に関しては「さわさわ」の項(下記)。ようするに、「さわぎ(騒ぎ)」はその「さわ」の動詞化ということ。動態がせわしなく無秩序に動き続ける。その際、音響もともなうでしょう。古くは「さわき」と清音。

他動表現は「さわがし(騒がし)」。

「渚(なぎさ)にはあぢ(鳥名)むら(群)さわき(佐和伎)」(万3991)。

「浜清く白波さわき」(万4187)。

「東(あづま)の夷(えみし)多(さは)に叛(そむ)きて辺境(ほとり)に騒(さわき)動(とよ)む」(『日本書紀』)。「胸騒ぎ」。

この「さわ」が擬態となっている「さわさわ」という表現もある。「さばめき」もこの「さわ」による(その項)。

 

◎「さわがし(騒がし)」(形シク)

「さわぎああし(騒ぎああし)」。「ああ」は、さまざまな心情を表現する、感嘆発声。 「さわぎ(騒ぎ)」(その項)の形容詞表現。「さわさわ(騒騒)」しているという心情の表明。無秩序で煩わしい音響や動き、異変に関して言われる。

「こなたの御門は、馬、車たち込み、人さわかしう騷ぎみちたり」(『源氏物語』)。

「京より、母の御文持て来たり。『寝ぬる夜の夢に、いとさはかしくて見えたまひつれば、誦経所々せさせなどしはべる…』」(『源氏物語』:この「さはがし」は(人の死という)異変を予感させる平安の乱れ)。

 

◎「さわさわ」

「せあわ(瀬泡)」。泡が沸き立ちながら急流になって流れる状態を言う。動態がせわしなく無秩序に動き続ける。音響もともなうでしょう。二音連音で持続が表現され「さわさわ」と言う。この「さわ」は「さわぎ(騒ぎ)」や「さばめき」にもなる。

「釣(つり)爲(せ)し海人(あま)の、口大(くちおほ)の尾翼(をはた)鱸 訓鱸云須受岐(すずき) 佐和佐和邇(さわさわに) 此五字以音 控(ひ)き依(よ)せ騰(あ)げて」(『古事記』)。

「…木鍬(こくは)もち打ちし大根(おほね) さわさわに(佐和佐和爾)…」(『古事記』歌謡64)。

 

◎「さやぎ(騒ぎ)」(動詞)

「せはやぎ(瀬逸ぎ)」。「せ(瀬)」は水流であり、「はや(早・逸)」は経過展開の意外性に対する感嘆発声のような表現(→「はやし(早し・逸し)」の項)。意味は「さわぎ(騒ぎ)」に似ていますが、動態が逸(はや)りたつようにせわしなく無秩序に動き続ける。音響もともなうでしょう。

「『豊葦原(とよあしはら)の千秋長五百秋(ちあきのながいほあき)の水穗國(みづほのくに)は、伊多久佐夜藝弖(いたくさやぎて) 此七字以音 有那理(ありなり) 此二字以音 』と告(の)りたまひて…」(『古事記』)。

「蘆辺(あしべ)なる荻(をぎ)の葉さやぎ秋風の…」(万2134)。