◎「さり(避り)」(動詞)
「さし(障し)」の「さ」による、すなわち障害感を生じさせる「さ」による(「さし(射し・差し・等)」の項参照)、障害的情況が進行していることを表現する「さり」がある。「さけ(避け)」の活用語尾がR音になっているような動詞です。
「梓弓春の山辺をこえくれば道もさりあへず花ぞ散りける」(『古今集』:道を避け、そこを特別域とすることなく花が散っている。散った花でどこが道なのかわからなくなっている)。
「洪水みなぎり来(きた)らば、岳(をか)にのぼても、などか助(たすから)ざらん(なにとか、助からずあらむことは(倒置表現)→なんとか助かろうとする)。猛火(ミヤウクワ)燃(もえ)来(きた)らば川を隔(へだて)ても暫(しばし)も去(さん)ぬべし(ほんのひとときでも避けようとする)」(『平家物語』)。
「若い人参らせよと仰せらるれば、えさらず出だし立つるにひかされて…」(『更級日記』:避けられず、やむをえず)。
「さらぬ別れ」(障害が生じ阻止されることがない別れ。死別を意味する。「去(さ)らぬ別れ:どこかへ行ってしまわない別れ」ではない)。
この「さり(避り)」は意味として「さり(去り)」に似ているわけですが、何かと同動していてその何かを遠ざけたりその何かから遠ざかったり離れたりすればそれは「さり(去り)」であり、今は同動しておらず同動に障害があり同動しない場合「さり(避り)」です。
◎「ざる(笊)」
「ささル(笹縷)」。「ル(縷)」は、細い糸(いと)を意味しますが、意味発展的に、つづれ(綴れ)、すたれた服、といったことも意味する。「ささ(笹)」はこの語で細い竹を意味した。つまり、「ささル(笹縷)→ざる」は、細い竹の、それで編んだ、綴(つづ)れ・編み物、の意。細い竹で編んだ簡素な容器・道具を意味する(※下記)。この語は『物類称呼』(1775年)に「筲 いかき。機内及奥州にて、いかき。江戸にて、ざる…」(『物類称呼』)とあり、元来は江戸語。江戸庶民の中の文人風の人が名づけたのでしょう。ここにある「いかき」は「下学集」に「味噌漉也」とある語であり、「ゆかき(湯掻き)」の「ゆ」と「い」の交替。これに味噌を入れ湯の中で掻き、みそ汁にする。
※ もっとも、21世紀ではプラスチック製やステンレスで編んだものなどもある。