農具「さらひ(木杷)」の動詞化。厳密に言うと、その他動表現。農具「さらひ(木杷)」は「さらはひ(更這ひ)」。「さら(更)」はその項(8月9日)ということですが、意味としてはその「あるのに」の系列であり、動態が累加的であること(累加的に「さらに」「さらに」ということ)。「さらはひ(更這ひ)→さらひ」は、累加的に、さらに、さらにと、地を這うもの、の意。さらに、さらに、と累加的に何かに作用を及ぼす。作用を及ぼすとは、これを、我が物にするように、取り入れていく。草や木の葉その他に関しそれをおこなう。「さらひ(木杷)」とはそういう農具であり、具体的な形状は後世でいう「くまで(熊手)」のようなものです。「櫂 ………佐良比」(『和名類聚鈔』)。
この「さらひ(木杷)」の動詞化であり他動表現であるのが「さらはへ(更這へ)→さらへ」。「はへ(這へ)」は「はひ(這ひ)」の他動表現であり(地を)這(は)はすこと。つまり、「さらへ(浚へ)」は木杷(さらひ)で作業をするようなことをすることであり、何かに累加的影響を与え集めたり、我が物にしたりする。これは、井戸などを「さらへ」(井戸などのその内部の堆積物全体に累加的作用を及ぼしこれを取り去ったりする)もありますが、ものごとに関しても言い、たとえば琴を弾くことに関しある曲をさらへば、その曲の弾き方全体に累加的に作用を及ぼし、これを我が物として身につけようとしたりする。上記の農具の名も「さらへ(木杷)」にもなる。
この動詞は四段活用の「さらひ(浚ひ・掠ひ・復習ひ)」になる。上記の農具の名も「さらひ(木杷)」にもなる。
「糞土ナドサラヘバ。一日ノ物給フベシト云ヒヨリテ…」(『説教至要雑談集』)。
「江戸状(えどジヤウ:江戸店からの商業上の書状)どもをさらへ、失念したる事どもを見出し、主人の徳のゆくあり」(『世間胸算用』)。
「SARAYE, -ru, -ta, サラヘル, 浚, t.v. To clean out or deepen(きれいにしたり深くしたりする) by scooping or dredging(すくったりさらったりして), as a well or the channel of a stream(井戸や小川の水路として). Ido wo(イド ヲ) ―, to clean out a well(井戸を(ゴミを一掃し)きれいにする). Kawa wo sarayete fukakusuru(カワ ヲ サラエテ フカクスル), to deepen a river by dredging(川をさらって深くする)」(『和英語林集成』)。
「SARAYE, -ru, -ta, サラヘル, t.v. To study(努力する), con over(全面的に繰り返し), to go over again and again(何度も全面的に), as a lesson(練習訓練として). Hon wo(ホン ヲ) ―, to peruse a book(本を精読する)」(『和英語林集成』)。
「SARAI, サライ, 筢, n. A rake. Syn(同意語). KUMADE」(『和英語林集成』)。そのほか『和英語林集成』には「SARAI, ……掠」、「SARAI, ……浚」、「SARAI, ……復」という項もある。これらは「さらひ」。
「どぶさらひ」。「ピアノのおさらひ会」。「人さらひ」。