◎「さみだれ(五月雨)」

「さめみだれ(醒め乱れ)」。「さめ(醒め)」は世界が目が醒めたようになるということであり、「さめみだれ(醒め乱れ)→さみだれ」は、夏の明るさと乱れを感じる雨。月暦五月(太陽暦六月)ごろに続く雨を言う。このまま動詞としても用いられる。

「五月雨(さみだれ)をあつめて早し最上川(もがみがは)」(「俳句」)。

「ほととぎすのほのかにこゑうちし、さみだれたるころほひのつとめて(早朝)」(『宇津保物語』)。

「おほかたにさみだるるとや思ふらむ君恋ひわたる今日のながめを」(『和泉式部日記』:ありきたりにさみだれていると思っていらっしゃるのでしょうか。あなたへの思いが広がっていく今日のながめ(眺め・長雨)を)。

 

◎「さむし(寒し)」(形ク)

「さめみうし(冷め身憂し)」。体温低下による活性衰化の表明。「夕されば秋風さむし…」(万3666)といった表現もありますが、「さむき水(みもひ)」(水の一般特性から考えて温度の低い水。後世の一般的な言い方で言えば、冷(つめ)たい水、や、冷(ひ)えた水)、といった表現もある。

「惟(こ)の十二月(しはす)、高麗国(こまのくに)にして寒(さむ)きこと極(きはま)りて浿(エ)凍(こほ)れり」(『日本書紀』:「浿(エ)」は河の名。古訓で「エ」と読むのですが、音(オン)は「貝」の音でしょうから、日本なら「バイ」でしょう)。

「さぶい」という言い方もある。「今朝(けさ)はめっぽう寒(サブ)いナァ」(「滑稽本」『浮世風呂』)。

 

◎「さめ(鮫)」

「せはみえ(背刃見え)」。「せは(背刃)」とは、鈍重な刃物のような印象のこの魚の背鰭(せびれ)を表現したもの。海上にその「せは(背刃)」が見えるもの、の意。この魚の遊泳の印象による名。別名「ふか(鱶)」(サメの大きなものを言う)。また「わに」。「わに」は古くは鮫(さめ)を言いますが、別の四足爬虫類も言う。

「鮫 ……和名佐米」(『和名類聚鈔』)。

◎「ふか(鱶)」

「ふきは(振き歯(刃))」。古く「ふり(振り)」と同じような意味の「ふき(振き)」という動詞があった。振る歯(刃)、振りまわす歯(刃)が強い印象を残し、名となった。大型のサメ(鮫)を言った(同じ魚をサメともフカともいう)。

「鮝(※)魚 ……布可…今案未詳」(『和名類聚鈔』:「今案未詳」は、「鮝」は俗字は「鯗」で、「鯗」は『廣韻』に「乾魚腊也」と書かれるような字なので、なぜそれが「布可(ふか)」なのかよくわからない、ということでしょう。たしかによくわかりませんが、古くは鮫(さめ)は腊(セキ:干し肉)にすることが主要な調理法だったのかもしれません(少なくとも、そういう地方があったのかも知れず、人もその固い干し肉に歯をふるったのかもしれない)。鮫(さめ)の干し肉は現代でもある。※「鮝」の音(オン)は、ケン、か。現代の中国語なら、シアン、のような、シヤン、のような音)。

「鮝 …フカ」(『類聚名義抄』:「フ」の横に「ヌ」とも書かれている。「ぬきは(抜き刃)」ということか)。

◎「わに(鰐)」

「ゐあのゐ(居あの居)」。それが居ると(それを発見すると)誰もが「あ」と言うあり方のもの、の意。これは魚の一種ですが、危険性も感じられ、海の表面近くを練るように泳いでいることから、海上から発見もされた。「さめ(鮫)」「ふか(鱶)」とも言いますが、この「わに」という言葉はその後ある種の爬虫類の名になった。

「故(かれ)、欺海(うみ)の和邇 此二字以音(此の二字は音を用いよ) 下效此(下(しも)此(こ)れに效(なら)へ) を欺(あざむ)きて言(い)ひしく、『……』」(『古事記』:「和邇」は「わに」。『古事記』の他の部分に「和邇魚」といった表記もありますが、それは海の中のできごとであり、この「わに」は鮫(さめ)でしょう)。

「鰐 ……和名和仁 以鱉有四足 喙長三尺 甚利歯 虎及大鹿渡水 鰐撃之皆中断」(『和名類聚鈔』:「鱉(ヘツ)」は「すっぽん(鼈)」。鰐(わに)はスッポンを伸ばして巨(おお)きくしたようなもの、ということか)。

ちなみに、爬虫類のワニに関しては揚子江(長江)下流域にヨウスコウワニと呼ばれるワニは自生しており、古代の日本人がこれを実際に見ている可能性は十分にある。