◎「さぐくみ」(動詞)

「さきゆきうみ(先行き倦み)」。「ゆき(行き)」は「いき(行き)」の母音交替。前進することが嫌になるほど難渋すること。難渋しながら進むこと。

「波の上をい行きさぐくみ 岩の間(ま)をい往(ゆ)きもとほり…」(万509:「もとほり」は同じところをめぐるような状態になること)。

「…大船に ま櫂(かい)しじ貫(ぬ)き 朝なぎに 水手(かこ)ととのへ 夕潮に 楫(かぢ)引き折り 率(あども)ひて 漕ぎ行く君は 波の間を い行きさぐくみ…」(万4331:「率(あども)ひて」は、皆を率(ひき)いて、のような意)。

この語は「さくみ」(下記)とは別語。

 

◎「さくみ」(動詞)

「さきふみ(先踏み)」。先へ先へと踏み前へ前へと進行して行くこと。積極的に前進すること。

「…の山に 吾が恋ふる妹は坐(いま)すと 人の言えば 石根(いはね)さくみて なづみ(進行に障碍が生じつつ)来(こ)し…」(万210)。

 

◎「さくなだり」

「さくにあとはり(咲くに跡張り)」。「にあ」が「な」になり「とは」が全音N音の影響も受けつつ濁音化し「だ」になっている。「に」は動態を形容する助詞の「に」であり、たとえば「豪快に笑ふ」の漢語「豪快」の部分が「咲く」という動態を形容する表現になっている表現。「あと(跡)」は記憶痕跡を意味し、印象、ということ。それを「はる(張る)」とは記憶痕跡を、印象を、感じさせる情況になる、印象を生じさせる、ということ。すなわち「さくにあとはり(咲くに跡張り)→さくなだり」は、咲くという状態で印象を生じさせる、ということであり、咲く如く、のような表現であり、「咲く」には花の印象が背景としてあり、これは、ある程度の勢い(活き活きとした生命力を)もって湧き出るように流れる水を、花が咲くごとく、のように美化した表現。

「皇神等(すめかみたち)の敷(し)き坐(いま)す山山の口よりさくなだりに下したまふ水を…」(「祝詞」広瀬大忌祭)。

「高山短山(たかやまひきやま)の末よりさくなだりに落ちたぎつ速川(はやかは)の瀬に坐す…」(「祝詞」六月晦大祓)。

この語は、語義未詳、とされますが、周辺の事情から、水が流れ落ちることを表現していることは理解されている。