◎「さかひ(境ひ)」(動詞)
「さけいはひ(避け祝ひ)」。「いはひ(祝ひ)」は人智の及ばない経験経過それが這ひ(情況感が動態感をもって作用し)」という意味ですが(→「いはひ(祝ひ)」の項・2020年2月22日)、「さけ(避け)」て、すなわち回避して、祝ふ、避けて、すなわち回避して、人智の及ばない経験経過それが這ふ(情況感が動態感をもって作用する)、とはどういうことかと言うと、ものであれことであれ、何かに、とりわけ禁忌をともなう、特別域を設けることです。「大君のさかひ賜ふと山守すゑ守るとふ山に…」(万950)。これにより域は一般域と特別域に分かれるわけですが、これが、ある域を幾つかの特別域にすることも表現するようになる。「三国をさかふ富士の…」(『玉葉集』)。ある特別域と他の特別域とが接触している場合、その接線も連用形名詞化で「さかひ(境)」と言い、何かをその「さかひ(境)」とすることも動詞で「さかひ(境ひ)」と言う。「山河(やまかは)を隔(さかひ)て国(くに)県(あがた)を分(わか)つ」(『日本書紀』)。
◎「さかひ(逆ひ)」(動詞)
「さか(逆)」の動詞化。逆に作用すること。逆向すること。ある性向や動向とは逆の、それを否定し同動しない、さらには積極的にそれを否定しそれを無効にしようとする、こと。「かの妻、もとより腹悪しくして、つねに夫の気にさかへり」(「仮名草子」)。「波がさかふ」は、波が通常期待される重力状態とは逆の印象の動態になる。つまり、暴風雨などで波が舞い上がるような状態になる。「耳にさかひ」は聞いて抵抗感が生じ嫌な思いになったりすること。なにかに対し逆向すればこれに抵抗したりはむかったりする。「弘光、(相撲で負け)ほどなく立ち上がりて、『これはあやまちなり。今一度、さかふべし』とて、歩み寄るに…」(『十訓抄』:これは、対抗する、のような意味。もう一度勝負しろ、と言ったわけです)。
◎「さかへ(逆へ)」(動詞)
「さか(逆)」の動詞化。客観的に対象化された主体の(活用語尾E音による)自動表現であり、「さかひ(逆ひ)」と同じような動詞なわけですが(「さかひ(逆ひ)」や「さからひ(逆らひ)」と同じような意味(1))、「さかひ(逆ひ)」の他動表現の「さかへ(逆へ)」もある。意味は逆向させること(2)。
(1)「片言(ちょっとした言葉)耳にさかふれば公卿といへどもこれをからむ」(『平家物語』)。
(2)「身に鱗をさかへ」(『法華義疏』:鱗(うろこ)を逆立て、のような意)。