「さがから」。語尾のR音は退化した。語頭の「さ」はなにかを指し示す→「さ(指し示し)」の項。「が」は所属を表現する助詞。「から」は「動態であれ対象であれ、それがなければ生体として存在しない情況・そうした情況にあるもの・ことを言う」(「から」の項・2021年6月28日)。「さがから→さが」、すなわち、それの、それがなければ生体として存在しない情況・そうした情況にあるもの・こと、とは、それのそれたる特性、のような意味になる。「夢のさが(祥)」は、その夢のその夢たる特性、その夢によって表される意味。人は周囲に起こる自然現象によって次に起こることを知ったり、知ろうとしたりし、その自然現象の「さがから→さが」は、その現象の、その現象によって示された、その内容となる。前兆・予兆・前知らせ、古い言い方では前表(ゼンピョウ)、といった意味です。「人間のさが(性)」は、人間の人間たる特性(これは、人間とはそういうもの、というような意味で言われる)。この「人間のさが(性)」は、後世になるほど、人間の悪性を言っているようにも聞こえるようになりますが、「さが」の原意はそうしたものではありません。そうした後世のような「さが(性)」の用いられ方は、人間は煩悩に満ちている、という仏教の人間観に影響されているものでしょう(人間とはそういう性(さが)なのだ、という諦念的な表現です)。

「吾(われ)は是(これ)男子(ますらを)なり、理(ことわり)當(まさ)に先(ま)づ唱(とな)ふべし。如何(いかに)ぞ婦人(たわやめ)にして反(かへ)りて言(こと)先(さきだ)つや。事(こと)既(すで)に不祥(さがな)し…」(『日本書紀』:『古事記』に、男神と女神が会い、女神がまづ「あなにやし、えをとこを」と言い続いて男神が「あなにやし、えをとめを」と言い、女神が先に言うのは良くない、と言って言い直すという部分がありますが、この『日本書紀』にも同じようなことが書かれ、女神が先に言うのは「不祥(さがな)し」だと言っている)。

「夢(いめ)の祥(さが)に因(よ)りて、立ちて皇太子(ひつぎのみこ)となりたまふ」(『日本書紀』)。

「いとくまなき御心のさがにておしはかり給ふにや侍らむ」(『源氏物語』:些細なところまで行き届かぬところのないその性質から、推しはかるのではないのか)。

「後れ先立つほどの定めなさは、世のさがと見たまへ知りながら…」(『源氏物語』:いつ誰に先だたれ残されいつ先立つか、その定めのなさは世の「さが」(それが人の世)とは知りながら…)。

「SAGA. サガ, 祥, n. An omen, sign(前兆), prognostic(前兆・兆候). Yoki saga, a good omen(良い前兆・前知らせ). Syn. ZEMPIYO(前表), KIZASHI(兆し), DZUI(瑞)」 「SAGA, サガ, 質, n. Disposition(性質・気質・性癖), temper(気質・気性・気分). Gaman no ―, obstinate disposition(頑強な性質). ― nikuki hito, a person of a hateful disposition(憎むべき、嫌な、人). Syn. SHO(性), SHITSU(質), SEI- SHITSU(性質)」 「SAGA, サガ, 善悪, (Yoshi,ashi). Merit or demerit(長所あるいは短所・欠点), good or ill(良し悪し). Kusa ki wa hito no ―wo iwadzu,…」(以上三項目『和英語林集成』:()内には原文にはない訳などが書かれている。(Yoshi,ashi)は原文にある)。