◎「こひぢ(泥)」
「くろひちつち(黒漬ち土)」。黒く、濡れた印象の土。濡れた土を意味する「ひぢ(泥)」という語は別にあり、ようするに「くろひぢ(黒泥)」ということ。
「泥 …土和水也…和名比知利古 一云古比千」(『和名類聚鈔』)。
「はま(浜)も、すなご(砂子)しろ(白)くなどもなく、こひぢのやうにて…」(『更級日記』)。
◎「こぶ(瘤)」
「こみふ(凝身生)」。凝固した印象の、身の発生・育ち。なにかのその身の、その身を構成するものが、そこに凝固し増えたようにあること・もの(その部位)、の意。人体の一部がそうなり腫瘍(シュヤウ)と言われるものから、粉瘤や脂肪腫と言われるもの、打撲による皮膚の局所隆起、同じような印象の樹木や土地状態の局所隆起などを言う。「たんこぶ」は、打撲で頭などにできた半円球状の隆起を「たまこぶ(玉瘤)」と俗称したことによるものでしょう。
「癭 コフ 病也」(『伊呂波字類抄』)。
「これも昔、右の顔に大きなる瘤(こぶ)ある翁(おきな)ありけり。大柑子(おほかうじ)の程(ほど)なり…」(『宇治拾遺物語』)。
◎「ごふく(呉服)」
「御服(ゴフク)」という語は古くから一般的にあり「呉服(ゴフク)」とも混用される(「賜二大使副使御服」(『続日本紀』宝龜七(776)年四月十五日))。この「御服(ゴフク)」は朝廷の権威を思わせるような、質も高級な、立派な服なのですが、後世、一般に「呉服」と書かれる「ごふく」はこの「御服(ゴフク)」に由来し、庶民の高級服、のような意味で言われた語。それを「御服」と書けば伝統的な意味となりそうは書きづらかった。そこで「呉服」と書かれた。では、なぜ「呉」の字なのか。結局、これは、「娯」の「女」を書かなかったということでしょう。「娯(ゴ)」ははなやかな楽しみを意味しますが、それが女だけのものでもないものが「呉服」の「呉」。意味としては、高級な良い服、ということであり、それは公家の特権的なものではなく、庶民一般向けのものです。これに関しては、古く「くれはとり」(呉(くれ)の機織り)を「呉服」と書いたから、とも言われますが、「くれはとり」を「呉服」と書いたことは、後世、高級な良い着物を「呉服」と書く理由にはならないでしょう(高級な良い着物を「外国製の服」や「中国服」と表現したということか?)。「『呉服 太物 商』」(「引札(商売用広告宣伝チラシ)」(1868年):「太物(ふともの)」は、絹織物に対しての、綿織物や麻織物。つまり「呉服」は絹織物たる高級服)。