これは、ほとんどは、「都び」「荒び」その他にあるような、何かが有るとありありと思わせることを表現する「~び」による動詞なのですが、様々な意味のものがあると思われます。

・「こび(媚び)」―「コビ(狐媚)」(へつらい、まどわし、あざむくことを意味する中国語)の動詞化(これは「~び」による動詞ではなく、中国語「狐媚(コビ)」自体が動詞化している)。「媚(ビ)」には、なまめき、あでやかで、姿が美しいという意味があり、特に女が、そうした容姿や態度で人に取り入ることを言う。

「其の女壮(をとこ)に媚(こ)び馴(なつ)き…」(『日本霊異記』)。

「姿媚は、姿こびて美しきを云ふ」(『錦繍段鈔』)。

「三位中将桜の花をかざして青海波をまうて出られたりしかば、露にこびたる花の御姿」(『平家物語』)。

・「こび」―「コび(古び)」。古色ある趣(おもむき)、風格、深い意味性を帯びること。大人びていることも意味する。

「百年二百年にては花もこびぬものぞ。この寺は七百余年になれば、花も見事なぞ」(『中華若木詩抄』)。

「十歳からこびて家の事を治めたか、成人した人のやうにあったそ」(『蒙求抄』)。

・「こび」―「こび(小び)」。自分を小さく思わせ、それによる相手の、安心感や自分の大きさによる優越感を利用し人に取り入ること。また、相手の威をおそれ、相手が自分を小さなものと、力の弱い卑しいものと、見ているだろうという思いに安堵すること。

「無智にして大才(たいさい)に交り、不堪(ふかん)の芸をもちて堪能の座につらなり、雪の頭(かしら)をいただきて盛りなる人にならび、いはむや、及ばざることを望み、かなはぬことを憂へ、来らざることを待ち、人におそれ、人に媚(こ)ぶるは、人のあたふる恥にあらず。貪る心にひかれて、みづから身をはづかしむるなり」(『徒然草』)。

「権力にこびる」。

・「こび」―「コび(誇び)」。自らを誇る状態を帯びること。

「史大夫朝親といふ者有けり……才こびたる者也けり」(『十訓抄』)。

「森嶋権六といふ男、すこしこびたる者にて学力あれば」(「浮世草子」)。

・「こび(媚び)」「コび(古び)」「コび(誇び)」がすべて融合し結果的に「こび(小び)」と評価されているような「こび」もある。

「こびたる詞。……時鳥(ほととぎす)を四手(しで)の田長(たをさ)と云ふ類也」(『詠歌大概抄』)。